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野球クロスロードBACK NUMBER
「必要以上に劣等感を抱いてしまって…」甲子園で“全国制覇→準優勝”の名門が秋大会敗退で「3季続けて全国不出場」の異例…監督が語ったホンネは?
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2024/12/02 06:00
一昨年の夏の甲子園で優勝、昨年は準優勝と令和の高校野球を牽引してきた仙台育英。今年の苦戦を須江航監督はどう見ているのだろうか
内面と波長を合わせるかのように、外面のチーム力も養っていった。佐々木や土屋をはじめ、野手は前世代からの経験者がそれなりに顔を揃えるが、ピッチャーが懸案事項だった。それも、チームの精神が成長するにつれ、夏にメンバーから漏れた悔しさを糧に這い上がったエース左腕の吉川陽大に加え、1年生左腕の井須大史が台頭。
秋を迎える頃には、「どこと対戦しても、しっかり野球ができれば必ず結果がついてくる」と監督も手応えを抱けるだけのチームに仕上がった。
須江が約2カ月の歩みをしみじみ紡ぐ。
「甲子園優勝と準優勝という、強烈な成功体験があるなかで、これまで安定的に滾々と積み上げてきたチームの伝統とかを全部見つめ直して改善するとか、より良いものを作り上げていく作業というのは、とてつもないエネルギーを使うわけです。それでも、僕も選手も毎日、頭を悩ませながら、葛藤しながらも意見をぶつけ合ってきましたし、練習も本当によくやりました。期間はたった2カ月かもしれないですけど、1年分くらいやったような充実感を覚えたくらいなんです」
監督がチームの成長を誇るように、仙台育英は秋の宮城大会を1点も許さず制した。
だが、「優勝候補」と評された東北大会では、弘前学院聖愛との初戦を4-0でものにするも、準々決勝の聖光学院戦で2-3と敗北した。
ロジカルな須江監督が「精神論」を語った真意
須江は弁が立つ監督である。負けた試合こそ潔く、相手チームを称えながら自分たちの反省や課題を、報道陣にわかりやすく説明してくれるほどである。
聖光学院戦後、それまでと異なる須江がいた。いつもなら抽象的な言葉を避けるようにロジカルに対応してきた監督が、「心」や「魂」といった表現を多用していたのである。
そこに違和感があったと正直に伝えると、須江が今度は論理的に説明を展開した。
「一周したってことですね。中学野球を教えていた最初の頃というのは、それこそ気合いや根性を前面に出して指導をしていました。それで勝てなくて、試合のデータや選手の数値化を重視するようになって全国優勝できた経験があったので、仙台育英の監督になってもそれを継続して。
それを今回、もう一度、見つめ直したということなんですよ。チームをゼロから作り直すということは、根底にあるものと向き合わなければ前に進めませんからね」