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「バットが変わった高校野球で時代を制したい」スモールベースボール偏重は危険?…“150キロトリオ”で甲子園準優勝の名伯楽が「長打は正義」と語るワケ
posted2024/12/02 06:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Genki Taguchi
仙台育英を率いる須江航には、「丁寧な野球をすれば勝てる」という自負があった。
その矜持は、秋に体現できたとも思っている。5試合で30得点、無失点で優勝を果たした宮城大会で証明していたし、翌春のセンバツ出場を懸けた東北大会でも不変だった。
弘前学院聖愛との初戦。「東北屈指の左腕」と名高い芹川丈治に11安打を浴びせて4-0で勝利し、「最近ではこういうゲームはない」と相手監督の原田一範を悔しがらせた。
続く聖光学院との準々決勝でも、仙台育英は攻めの野球を貫いた。2回に4番バッター・川尻結大のスリーベースにスクイズで1点を先取。1-2と逆転を許して迎えた7回は、7番からの下位打線の3連打で1アウト満塁のビッグチャンスから強攻を仕掛け無得点に終わったが、9回には6番の髙田庵冬にホームランが飛び出し一矢を報いた。
実力は見せたが…聖光学院に敗れた「駆け引き」
そんな試合を落としてしまった仙台育英の敗因をあえて挙げるとするならば、「1点の駆け引き」となるだろうか。
1点を追う8回、ノーアウト一、二塁の場面だ。相手バッターがバントの構えを見せると同時にファーストとサードがホームベースに向かってチャージングをかけ、ショートが三塁ベースへカバーリングに入る「ブルドッグ」。このシフトを敷いたところ、聖光学院のセカンドランナーにスチールを仕掛けられ、キャッチャーの川尻が三塁へ暴投してしまったことで決勝点となる3点目を奪われた。
須江のなかでは盗塁はもちろん、バスターやエンドランを想定の上で、二塁牽制を1球入れることも視野に入れていた。それが、このプレーが起こる直前はベンチからサインを出さず静観し、グラウンドの選手を信じた。だから監督は、選手を糾弾することなく自責し、それ以上に自分たちの一枚上を行った聖光学院に敬意を表するのである。