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猛牛のささやきBACK NUMBER
3連覇→5位のオリックス…中嶋聡監督が口にした「慣れ」はどこにあったのか「めちゃくちゃ悩みました」残留したコーチが率直に語った“葛藤”
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/12 11:03
今季限りで退任した中嶋聡監督
「慣れ」は本当にあったのか
水本勝己ヘッドコーチは、ずっと考え続けている、と語る。
「本当に難しいところ。やっぱり『慣れ』というふうに監督が表現したことに対してはみんな反省せなあかんと思うし、どんなマイナスなことも、いいきっかけにして、今後どうしていくかを考えなあかん。ひとことでは、原因がこうだからというのはなかなか言えない。じゃあ3連覇していた時は全員(全力で)走ってたかと言ったら、そうでもないと思うし、今年の全部がダメだったということもないと思う。選手たちは上手くなろうと間違いなく努力しているし、今年はええわ、と思っているやつは誰一人いない。
僕も長く経験させてもらってきたけど、組織として3連覇というのは本当にすごいこと。でも(今年は)3連覇してきたんだからなんとかなるだろう、というのもあったかもしれない。こういう結果になったことはちゃんと受け止めて、全員で考えないと。厳しくしたらいいかといえば、そこはすごく難しい問題で、厳しいだけでもダメやし、バランスを取っていくことに対しては、答えはないけど、努力はしていこうと思う。
ただ中嶋監督の野球は、僕は間違っていなかったと、正しかったと自負している。でも今度は岸田野球という部分も出てくるだろうし、中嶋野球のいいところとミックスしながら、どうしたらチームが強くなるのか、みんなで真剣に考えていきたい」
「中嶋野球」の凄み
水本ヘッドコーチは、4年間そばで見てきた同学年の中嶋監督をこう評する。
「一番すごかったのは先の読み方。僕はいつも将棋に例えるんですけど、二手、三手、四手先とか、そんなもんじゃないんです。行き当たりばったりでなく、こうなったらこうなるんじゃないかという想像力と、自分が立てていた計画に対して何かがずれた時に、それならこうしていく、という行動力はすごい。選手に対する一つ一つの言葉も優れていると思うし、本当に勉強になりました」
中嶋監督の退任後、次々とコーチ陣の退団が発表された。中でも、かつて日本ハムでトレーニングコーチを務め、2019年からはオリックスで多くの選手を開花、再生に導いてきた中垣征一郎巡回ヘッドコーチの退団は、来年以降大きな影響を及ぼす可能性がある。
残ったコーチたちの葛藤
一方で、中嶋イズムの理解者だった水本ヘッドコーチや厚澤投手コーチが留任し、若い岸田護新監督を支えることは心強い。
広島で長年二軍監督などを務め、中嶋監督が正式に一軍監督に就任した2020年オフにオリックスに招聘された水本ヘッドコーチは、自身も退くべきかどうか葛藤したという。
「めちゃめちゃ悩みました。『一緒に辞めるべきやな』とも本当に考えました。でも、辞めることが責任をとることなのか……。計画性を持ってやってきた中で、怠った自分がいるんだったら、それは辞めなあかん。でも過程の部分では一生懸命やってきたし、中嶋監督と話したり、いろんなことがあって、最後はもう一回ユニフォームを着させてもらう形になりました。
監督はああいう形で責任をとるという言葉を残して去っていった。それは監督が考えて、自分の考えを曲げなかった。続けて欲しかった気持ちは100%あるけど、『監督辞めないでくださいよ』とは言わなかった。まあ冗談では言ったかもしれないけど(笑)、監督が最後決めたことだから。監督とは仕事の関係、大人の関係だったから、いい距離感だったなと今になって思います。べったり飯行ったり、『うんそうね。そうやね』という仲の良さじゃなく、本当に真剣に『どうする?』ってやっていたから」