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誰も知らない森保一BACK NUMBER
「森保ジャパンは戦術の引き出しが少ない」の誤解…森保一監督に直撃した“戦術的な質問”、本音で語る「アジアカップの反省でもありました」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/10/17 11:26
NumberWebのインタビューに応じた森保一監督(56歳)
まずビルドアップの際、右サイドバックの冨安と左サイドバックの伊藤洋輝が内側に絞ってハーフレーン(サイドから1つ内側に入ったレーン)に立ち、“逆台形”のような形を4バックでつくる。ブライトンやシュツットガルトでよく見られるポゼッション志向の配置である。
だが、その“逆台形”で固定するのではなく、ボランチの田中碧がセンターバック間に降りて変化を加え、それに応じて板倉が右に開いて「町田・田中・板倉」という3バックを一時的に形成。同時に冨安がサイドの高い位置に開き、3―「3」―1―3になるようなイメージだ(冨安は「3」の右ウイングバック)。陣形を変え、相手のプレスをかわすトリックである。
この際、森保監督がこだわったのが可変後に元の形に戻るスピードである。あくまで可変後の並びは特別形態であり、そのままになってしまうと攻守のバランスに綻びができやすい。プレスをかわして前進できたら、できるだけ早く元に戻るのが望ましい。
シリア戦で選手たちは、見事なシステム間の移行スピードを見せた。
「そこはアジアカップの反省でもありました。アジアの中でより押し込む戦いをする中で、ボールを失ったあとに空いたスペースを突かれることがあった。それが対戦相手の狙いでもあったと思います。それぞれの選手が一番いいと思えるところにボールを受けに行って可変し、ポジションを取る中で、バランスを保つことを練習の中で気をつけました」
「ムッとすること? ありませんね(笑)」
すでに多くのメディアで語られているように、森保監督はカタールW杯の半年前ごろからコーチたちに分業で攻撃・守備・セットプレーの戦術と指導を任せる「マネジメント型監督」に移行している。
カタールW杯時は横内昭展コーチ(現ジュビロ磐田監督)に攻撃、斉藤俊秀コーチに守備を任せ、現在は名波浩コーチに攻撃、斉藤コーチに守備を任せている。
「私は日本代表の勝利と日本サッカーの発展のために監督をやっていて、それがひいては日本のためになると思ってやっています。その原理原則を持っていれば、自分のプライドはどうでもいい。監督、コーチ、選手、スタッフ、立場は関係ない。みんな日本のために戦う仲間です。できる限り話を聞きたいと思っています。
選手に提案されてムッとすること? ありませんね(笑)。人それぞれ意見や考え方がある。たとえば選手23人が異なる提案をしても、選べるのは1つのみ。最後に監督が取捨選択しなければなりません。とにかく耳を傾け、最善・最適と思えるアウトプットをする。ピッチ上に立つのは選手なので、選手がどれだけ思い切ってプレーできるかを大事にしています」
カタールW杯までひとつの形を突き詰めながらも、突然本大会の試合中に個人の力を打ち出す強気なサッカーに転じ、選手すらも驚くような変身でドイツとスペインに逆転勝利した。ただし、次のW杯では同じ手が通用しづらくなるだろう。また、コスタリカやクロアチアのようにボール保持にこだわらないチームには敗れた。W杯優勝を目指すうえで、戦術の引き出しを増やすことは不可欠である。
「代表はクラブのプレシーズンのような準備と、公式戦の勝利を両立しなければなりません。そこにできる限りトライしていきたいと考えています」
2026年W杯最終予選では、勝敗に加えて、戦術的な取り組みが大きな見所になる。
<前編から続く>