“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「(上田)綺世に限らず、FW全員がライバル」2年前に小川航基が抱いた使命感…「W杯ベスト8の壁を破るためには自分のようなFWが必要」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJMPA
posted2024/06/10 11:05
カタールW杯を見て刺激をもらったと語った小川航基(26歳)。日本サッカーを背負う責任と覚悟がある
――U-20日本代表でチームメイトだった堂安律選手や冨安健洋選手らに追いついたという感覚はありますか?
「それは全然ないですよ。彼らは日本のサッカー界にすごく大きな貢献をしていますし。ただ、前回のカタールW杯は多くの刺激をもらいました。大会が終わった時に『次のW杯で点を取るのは俺だ』と本気で思ったし、彼らはずっと僕の心に火を灯し続けてくれる存在ですね」
――センターフォワードでは、カタールW杯に出場した1歳年下の上田綺世選手がいます。
「綺世に限らず、全てのFWに対してライバル心を持っています。Jリーグの選手でもいい選手だなと思ったら分析してきましたし、綺世もその中の一人です。彼の動き出しや点を取るポイントなど、直接本人の考えを聞きますし、切磋琢磨できている存在ですね」
――森保ジャパンのなかで“1トップ”に求められるタスクは非常に多いですよね。それについてはどう感じていますか。
「森保さんが監督に決まった時から、1トップは守備もして、ボールも収めて、ロストも少なくて、点が取れる選手であるということだと理解していました。2列目は素晴らしい選手がたくさんいるからこそ、森保監督が求めるタスクを全てハイレベルでこなすことができる1トップが出てくることが、W杯ベスト8への壁を破る大きな要因だと感じています。今は、そこに自分が食い込んでいかなければいけないという使命感と自負があります」
W杯ベスト8への壁を破るために
――使命感。カタールW杯は結構、冷静な目で見ていたんですね。
「日本代表に入れなかった悔しさよりも、『次は必ず』という気持ちを強く持っていたので。それに日本にはそれまで大迫選手という偉大なポストプレーもできるストライカーがいて、2列目の選手をいい状態で前向きでプレーさせてあげていた。(当時はJ2でプレーしていたが)それが今は僕に求められてきているんだ、ベスト8への壁を破るには自分のようなFWが必要不可欠なんだ、とずっと思っていましたから」
――だからこそ、小川航基という選択肢はずっと残っていたと思います。
「ここからが本当の勝負。日本のサッカー界にどう貢献するかという責任と覚悟に変わってきています」
――代表復帰となった北朝鮮戦のあとでは「遠回り」と言っていましたが、全部必要な時間だったことがよくわかりました。
「僕の感覚では、自分のサッカー人生は右肩上がり。試合に出ていない時間もあったので、ずっと下で横ばいになっていたのが一気に浮上してきたように見えるかもしれませんが、自分のメンタルや向上心、目的意識は波を打つことはありませんでした。どんな選手にも自分の良さは必ず存在する。それを絶対に見失わないことが重要だと思います。……時間がかかったのは、それでもまだ僕の心の弱さがあったから。もっと強くなっていきたいと思います」
終始、穏やかな表情だが、熱い言葉を紡いだ小川。
このインタビューから1週間ちょっと、彼は実際に2得点を奪った。シュート地点に到達するスピード、高校時代から磨くヘディングという小川らしい能力が凝縮されたゴールだった。
本人が言うように少し遠回りをしたかもしれない。ただ、一度も自分の武器を見失わなかったからこそ、こうやって日の丸を背負えている。そして、今も決して満足していない。
小川航基は日本のエースストライカーを目指し、強烈な自己主張を続けていく。
〈完・第1回から続く〉