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「ドキドキして昔の大一番を思い出したよ」曙と貴乃花、永遠のライバルが土俵で再会した春の日…54歳で没した横綱の“かけがえのない青春時代”
posted2024/04/17 17:00
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph by
JIJI PRESS
外国出身力士として初めて横綱となり、貴乃花、若乃花の“若貴”らとともに平成初期の空前の相撲ブームを支えた曙太郎さんが、心不全により都内の病院で亡くなった。54歳だった。
8年前の春の日、ライバル貴乃花の激励に訪れ…
訃報は大相撲一行が春巡業で関西から中部、北陸を回って静岡県御殿場市に入った4月11日にもたらされた。今年は天候不順により桜の開花がずれ込み、ようやく訪れた麗らかな日差しが心地よかったのもつかの間、中旬に入るとうっすらと汗ばむほどの陽気となった。
今から8年前の2016年(平成28年)4月16日、春巡業が行われた群馬県高崎市も初夏を思わせるような気候だった。爽やかな春陽が窓から差し込む会場に詰めかけた観客は、この日の“サプライズゲスト”の登場にどよめいた。2メートルを超す長身の大男が土俵に上がり、スタンドマイクの前で挨拶をすると大歓声が沸き起こった。
「土俵に上がった瞬間、ドキドキして昔の大一番を思い出したよ」と興奮を隠しきれなかった元横綱曙。かつてのライバル貴乃花がこの春から巡業部長に就任したとあって、花束を持って激励に訪れたのだった。
「(同じ土俵に上がるのは)彼の引退相撲以来かな。でも、見合ってなかったから」と語ったように、2003年(平成15年)夏場所後の貴乃花引退相撲の際は、断髪式で鋏を入れただけで“対面”は果たしていない。両雄が土俵の上で面と向かったとなると「2000年(平成12年)九州場所の14日目以来だよ」と第64代横綱ははっきりと覚えていた。
同場所は曙が11回目となる最後の優勝を成し遂げた場所で、寄り切りで勝ったこの一番が二人の最後の対戦となった。ともに初土俵を踏んだ1988年(昭和63年)春場所以来、両者の優勝決定戦を含めた通算対戦成績は25勝25敗と相譲らない全くの五分。当初はハワイからやってきた規格外の青年が幕内の対戦成績で大差をつけ、そのまま角界の頂点へと上り詰めた。
兄弟対決の夢を打ち砕いた「伝説の巴戦」
横綱3場所目の1993年(平成5年)名古屋場所千秋楽は、13勝2敗で曙、大関貴ノ花、関脇若ノ花(四股名は当時)の3人が並び、優勝決定巴戦になった。当時は“若貴ブーム”が最高潮に達していた時期。ファンのみならず、日本中が兄弟対決を望んでいたと言っても過言ではなかった。対戦を決める抽選の結果、貴ノ花が控えに回ったが、当時24歳の若き一人横綱は兄弟もろとも土俵下まで吹っ飛ばす圧勝で、国民の淡い夢をも打ち砕いた。