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「ドキドキして昔の大一番を思い出したよ」曙と貴乃花、永遠のライバルが土俵で再会した春の日…54歳で没した横綱の“かけがえのない青春時代”
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/17 17:00
長い闘病生活の末、54歳で亡くなった曙太郎さん。貴乃花と唯一無二のライバル関係を築き、空前の相撲ブームの立役者となった
圧倒的なパワーと長いリーチを生かした強烈なもろ手突きを武器に、曙は「横綱初優勝」を遂げると、この場所から3連覇を達成。振り返ってみれば、この時期が全盛期と言えた。
不当な見送りもあり、ライバルに遅れること約2年。横綱に昇進した貴乃花は1995年(平成7年)秋場所から決定戦も含めて7連勝するなどその差を縮め、優勝回数も追い抜いていく。その後の曙は両膝に爆弾を抱え、優勝からも長らく遠ざかる苦しい土俵が続いたが、両者の対決は優勝争いにかかわらず、常に手に汗握る熱戦となりファンを大いに魅了した。
相撲に打ち込んだ“かけがえのない青春時代”
その両雄が高崎の土俵で互いに満面の笑みで並び立ち、報道陣らの写真撮影に応じていた。この季節の陽気にも似た和やかな雰囲気に包まれてはいたが、そこは幾多の死闘を繰り広げてきた二人にしか共有できない空間であり、何人も侵すことのできない“聖域”のようでもあった。
「巡業を旅行のつもりでいて、東京に帰って2週間で体を作ろうとするからケガをする。自分たちは巡業でいろんな人と稽古をクタクタになるまでやって、毎日頭を洗っていたよ。貴乃花親方のもとでちょっとでも変われば、もっともっといい相撲になると思う」
その口ぶりは角界の後輩たちへの苦言などでは決してなく、巡業部長の要職に就いたかつての盟友へのエールであり、「ライバル打倒」のために寝食を忘れて相撲に打ち込んだ、かけがえのない“青春時代”に思いを馳せているようでもあった。
「自分は協会を離れた人間だけど、相撲は大好きなんでいつも応援している。力になれることがあれば、遠慮なく言ってほしい」
奇しくもこのちょうど1年後の春、体調不良を訴えて緊急入院となり、以来、7年もの長い闘病生活の末に逝去。最期まで「相撲愛」を貫いて天国へと旅立った。