甲子園の風BACK NUMBER
スマホで情報収集…“孫世代の球児”は「叱っても上達しない」愛工大名電監督65歳が情熱を注ぐ“先端データ分析”「流れについていかないと」
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2024/03/21 17:16
ノックバットを持つ愛工大名電の倉野監督。65歳にして野球に対する進取の精神は豊かだ
「今の選手の情報収集能力や新しいことへの対応力は、私たちの世代の比ではありません。その長所を生かして、野球の能力も伸ばしていきます。一方で、我慢強く継続することが苦手な傾向にあります。上手くいかないことを叱っても、選手の技術は向上しません。技術の習得に興味を持ち、練習やトレーニングの目的に納得できるようにすれば、上手くなりたい選手は自然と努力を続けます」
選手によって課題は異なり、興味を持つポイントも違うため、全ての選手に共通の目標を課すことはない。目標に向けたアプローチの方法も選手に任せ、声をかけるのはヒントやアドバイスにとどめる。
「選手に強制はしません。分析して考えることが勉強ですから」
指導者の役割は環境を整えるところまでと認識している。
押し付けても、なかなか選手は上達しません
データを技術向上につなげられる選手は、パワーや運動能力で劣っていてもレギュラーを獲得するチャンスが広がる。実際、チーム内で打球速度が速くない選手がスタメンに入るケースも珍しくない。倉野監督は「打球速度が遅い選手の方が試合で打率が高いんです」と明かす。
長年、選手を見てきた経験から、プロに行く突出した力のある選手を除いて、平均的な高校生は長打力と確実性を兼ね備えるのは難しいという。長打率の高い選手は打率が低く、打率が高い選手は長打率が低くなる。
愛工大名電の選手たちは自分の打球速度や打球角度を把握している。
パワーのない打者は本塁打や外野の頭を越す打球を狙わない。どのくらいの角度で打球を飛ばせば、内野や外野の間を抜けるのかを考える。3Dやハイスピードカメラの映像、数値をフル活用して理想の角度に必要なスイング軌道やタイミングの取り方などを分析。定位置をつかむ道を模索するわけだ。
倉野監督は「指導者が技術や練習法を押し付けても、なかなか選手は上達しません。何度指摘されても課題を修正できなかった選手が、映像と数字を分析してから真剣に課題に取り組んで改善した例もあります」と効果を実感している。
守りに入るより、新しいことをやっていく
愛工大名電は今春の選抜高校野球大会が春夏通じて25回目の甲子園となる。