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スマホで情報収集…“孫世代の球児”は「叱っても上達しない」愛工大名電監督65歳が情熱を注ぐ“先端データ分析”「流れについていかないと」
posted2024/03/21 17:16
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Jun Aida
指導者になって42年が経つ。愛工大名電を甲子園常連校に育て、多数のプロ野球選手を輩出した倉野光生監督は65歳になった。教員の定年が目の前に迫り「もう、おじいちゃんです。選手は孫の世代ですから」と笑う。だが、過去を振り返るつもりは全くない。新しい知識や情報を求め、未来を見ている。
練習場を訪れると、投打にわたってデータ計測が
「ドライブラインの高校野球版ができたらおもしろいよね」
ドライブラインとは米国のシアトル郊外にある施設「ドライブライン・ベースボール」。最新機器で選手を緻密に分析し、怪我の予防やパフォーマンスアップを目的とした科学的なトレーニングを提唱している。ドジャース・大谷翔平選手らメジャーで活躍する選手も訪れている。
気合と根性のイメージが根強い高校野球と最先端技術を駆使したトレーニング。一見対照的だが、倉野監督の目は真剣だ。そして、愛工大名電野球部のグラウンドを見ると、指揮官の言葉が冗談ではないと分かる。
ティー打撃では1球1球、選手の打球速度を計測する。フリー打撃では打球の角度も測る。ブルペンにはカメラ、電光掲示板、テレビモニターが設置されている。投球は1球ごとに球速と回転数が電光掲示板に表示され、投手は数字とともにテレビモニターで自分のフォームを確認する。チームにはデータを測定・分析するラプソードが3台。最新式のスピードガンは11台あり、そのうちの1つは性能をテスト中で日本に1台しかないという。
ブルペン投球と言えば一般的に、100球、200球と投げ込む日をつくって感覚を磨いていく方法が取り入れられている。愛工大名電も以前は、そうだった。しかし、今は1日最大30球にとどめている。1日500球、1000球を課していたティー打撃は、目標が数から打球速度へと変わった。
投手を1人減らしてでも分析できる人材を
倉野監督は「どれだけ分析しても最後は人間の体で覚えることが必要」と反復練習が不可欠と考えている。ただ、同時に科学の力を使えば近道になると強調する。