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「クビでも仕方がない」箱根駅伝“まさかのシード落ち”…その夜、中央大・藤原監督は4年生に頭を下げた「青学大を抜く、幻のレースプラン」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byWataru Sato
posted2024/01/31 11:21
中大・藤原正和監督。箱根駅伝から3週間が経ち、NumberWebのインタビューに応じた
「いま、活動している学生は自分が勧誘してきた選手たちですし、彼らをこのまま手放してしまうわけにはいかないと思いました。この経験は、なにかの意味を持つはずだろう。この地獄を味わったからこそ、優勝できたんだ、と言えるようにしなければならないと考えました」
そしてもうひとつ、レースを振り返ったうえで、藤原監督には絶対に証明したいことがあった。
「いま、大学の長距離界にはいろいろなアプローチがあります。駅伝を重視する戦い方もあれば、駒澤さんのようにトップの選手たちは大八木総監督と世界を視野に入れた強化を進めています。中央も、世界を意識しています。トラックでしっかり勝負をしたうえで、秋からの駅伝でも結果を出す。駅伝はあくまで“強化のツール”であることを証明したいと思いました」
かつて、世界陸上のマラソン代表だった藤原監督らしい考えだ。駅伝がすべてではない。世界を狙える選手であれば、志を高く持って欲しい。
「体調不良は防げたのか?」
一方で、「体調不良は防げたのか?」という疑問も湧いてきた。藤原監督は自問自答を繰り返した。
「陸上部では常々、体温、脈拍、血圧の測定をしています。体調が悪くなる兆候として、血圧の幅が乱れてきます。そのサインを見逃してしまったかもしれません。いまはデータで数値を管理していますが、以前のように手書きのままだったら、早めに気づきがあったんじゃないかとか」
体調不良者が出てからの処置を、専門家の先生にもレビューしてもらったが、対応の仕方としてはこれ以上のことは出来ないでしょう、という言葉はもらった。防ぐ手段はなかった。ただ、発症のタイミングが成績に直結した。
実際、今回は各大学で感染症が蔓延した。青学は12月上旬に強化合宿に参加していた16名中10名がインフルエンザに罹患した。神奈川大では12月中旬、胃腸炎が広がり、体調が回復しないまま本番を迎えた選手が多かった。
ある大学の監督は、こう話す。
「コロナ禍の期間中、衛生管理を徹底していたので、学生たちは風邪をひくこともほとんどなかったんです。ひょっとして、そのために自然免疫を獲得していなかった気がするんです。そのツケが各大学で一気に襲ってきたんじゃないでしょうか」
「駅伝シーズン全体の反省があります」
藤原監督は、よりマクロ的な視点で今回の出来事を捉えている。