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「クビでも仕方がない」箱根駅伝“まさかのシード落ち”…その夜、中央大・藤原監督は4年生に頭を下げた「青学大を抜く、幻のレースプラン」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byWataru Sato
posted2024/01/31 11:21
中大・藤原正和監督。箱根駅伝から3週間が経ち、NumberWebのインタビューに応じた
2016年10月の箱根駅伝予選会で、予選落ちしてしまった時だ。そのときもクビになる覚悟で臨んだ。
「当時、箱根で戦うためには、これだけの合宿期間、そして予算が必要ですと話した記憶があります。たとえ、私がいなくなったとしても、後任の指導者のバックアップをお願いしますと頭を下げました」
藤原監督が続投したことで、2023年大会では2位まで躍進した。吉居大和、中野翔太、湯浅仁の三本柱が最終学年を迎えた今年、是が非でも優勝するのが藤原監督の願いだった。「彼らを男にして卒業させたいです」と話していたが、それは幻に終わってしまった。
「私以上にいまの4年生がつらいでしょうし、彼らに背負わせなくていいものを背負わせてしまったという思いがあります。湯浅、吉居、そして中野は将来的にはオリンピック、世界選手権を目指せる選手たちです。今度の結果を将来につなげて欲しい。それだけを願っています」
『駅伝が怖くなりました』
中大にとって、新しいシーズンはもう始まっている。しかし、今回の箱根の結果は、学生たちに様々な影響を残している。
「8区を走った阿部陽樹は、『駅伝が怖くなりました』と話していました。そのあと、都道府県対抗駅伝の山口県チームに帯同して、また前向きになってくれたようで安心しましたが」
この言葉は私に衝撃を与えた。以前、阿部を取材した際、「駅伝が大好きです。中大の4年間、すべての駅伝で走りたいです(笑)」と話すほど、駅伝への忠誠が高い選手だったからだ。それだけ、箱根駅伝での走りがメンタルに及ぼす影響は大きい。
藤原監督は新しい幹部たちと、目標設定に関して、話し合いを重ねている。
「いまの3年生は、4年生が華々しい学年だったこともあり、どちらかといえば控えめな学年ではあります。新幹部とミーティングをしましたが、最初に目標としてあがってきたのが『箱根駅伝予選会トップ通過、62分台5人、63分台5人』というものでして……これ、いまでも実現できるんです(笑)。私からは『もっと夢のある目標を立ててもいいんじゃないかな』と話しました」
箱根の結果を受け、3年生たちは慎重になっているのかもしれない。藤原監督は学生たちに「予選会から這い上がり、どこまで行けるのか楽しんでほしい」と願っている。
◆◆◆
箱根駅伝は、そこに関わる人たちの人生を大きく左右する。
今回の出来事にも意味はあったと、藤原監督が感じる時がいつか来るだろう。
時は流れる。それでも「C」の文字を胸に付けた青年たちは、走り続ける。
いつか「優勝」がやってくると信じて。
<前編から続く>