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「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル”
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/01/30 11:03
76年ぶりにセンバツに選出された和歌山県立田辺高校。カウンセラーと連携して選手一人ひとりとカウンセリングも行っているという
「定期的に面談をすることももちろんですが、選手らとのコミュニケーションは大事にしています。一方的に話すのではなく、1対1で話すようにはしていますね。
一時期、僕は3年間ほど教育相談と言って不登校の生徒とカウンセラーと一緒になって話を聞くこともありました。気になる生徒がいたら、どういう声掛けをすればいいのか、カウンセラーさんにヒントをもらってきました。
カウンセラーさんが、がっつり教育の場にいるのではなく、連携しながら、という感じです。カウンセラーと不登校の生徒という繋がりも大事ですが、部活動でも先生らが直接アドバイスをもらって指導の場に生かすのもいいのではと思ったんですね」
子どもの数が減っているとはいえ、時代の多様化、社会の複雑な絡み合いから、子どもたちの感受性も様々だ。そこに沿った指導をしていくには、指導者も色々な受け止め方が必要なのではないか。田中監督はそう胸に留めながら選手たちに向き合っている。
「元気がない子は、表情を見れば分かりますからね。家庭とか、勉強のことで何かあったのかなと。こちらが感じたらすぐに話し掛けてあげるとか、そういう心構えは大事だと思います。こちらがアップデートしていかないといけない。新しいやり方をする中で、勝てる方法を今は模索しているところです」
縛られず、自由に「やり切る」田辺スタイル
かつては監督を見れば顔色をうかがって、いそいそと行動する選手がいたが、田辺の選手は指導者がいても、実に生き生きとしている。頭髪も自由で個々の表現も様々。縛られず、なおかつ自分たちができることをやり切る、というスタンスが田辺には隅々まで浸透している。
同じ紀南地区から、耐久高校も一般枠で出場を決めている。
「耐久は今まで練習試合もよくやる仲ですし、ライバル意識なんてとんでもないです。夏の大会前になったら負けたくないというのはありますけれど……でも、一緒に頑張ろうとは言うてます」
耐久は部員が19人だ。ちなみに耐久の井原正善監督も「秋のウチの選手らは常に冷静だった」と、4強まで勝ち進んだ近畿大会を振り返っていた。
わずかな人数でも、“鋼のメンタル”が秋は何にも敵わぬ大きな力になった。
そんな無限の力を従えた野球王国・和歌山が生んだ2校が、今春いよいよ大舞台に立つ。