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「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル” 

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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posted2024/01/30 11:03

「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル”<Number Web> photograph by Fumi Sawai

76年ぶりにセンバツに選出された和歌山県立田辺高校。カウンセラーと連携して選手一人ひとりとカウンセリングも行っているという

 山本は1年秋から背番号6を背負い、早くから期待されてきた打の柱である。そんな山本を田中監督は「1+1=3のような子」と明かす。それだけ何かをやってくれるのではないか、という期待が膨らむポテンシャルを秘めているのだ。

「1+1=2は普通にやってくれる子として、山本はそれ以上の可能性のある子です。あの場面は、ピッチャーが代わって2番手の子もいきなり140km台が出ていました。それでも怯まなかったのはさすがです」

 チームの大黒柱はエース右腕の寺西邦右だ。寺西も山本に負けないメンタルの強さの持ち主で、山本と共に早くから公式戦でも中心的存在だった。

 寺西の公式戦デビューは1年の夏。初戦でいきなり智弁和歌山と激突するも、その試合の先発マウンドに立った。だが、スイスイと抑えて2回無安打無失点の快投を見せたのだ。

「普通は1年生でいきなり智弁戦に投げるとなると、すごく“ビビる”と思うんですけれど、マウンドでもそんなそぶりは見せなかったし、投げ終わった後も“ちょっとだけ緊張しました”ってケロッとしていて。これは、なかなかいない子だと思いました」(田中監督)

 さらに体の強さも寺西の大きな武器だ。独特のインステップ気味のフォームから放たれるストレートは140kmに届くまでになったが「これからもっと伸びる素質がある」と田中監督は期待する。昨秋は7試合中6試合を完投したが「秋は公式戦が週末だけなので中5日空くのと、コンディション不良で夏休みは投げさせていなかったので、どんな感じかな、と思いながら彼に託していました」と指揮官は理由を明かした。

強豪に公式戦初勝利も「スーッと帰ってきました」

 ただ、その双璧を倒した直後も、ナインは感情を爆発させることはなかった。

「智弁さんに勝った後も、今までの試合の後のようにスーッと帰ってきましたからね(笑)。試合終了直後も、あまり取り乱すこともなかった。田辺が智弁に公式戦で勝ったのは初めてだったみたいです」

 智弁和歌山は和歌山の球児、指導者から見ると、まさに雲の上のような存在だ。

「もう、別格ですよね。色んな奇跡が重ならないと勝てない相手。個々の能力はウチの選手なんて到底敵わないですけれど、野球って何が起こるのか分からないと言いますよね。あの場面で満塁ホームランが飛び出すなんて、誰も思わないでしょうし」

【次ページ】 「社会が変わるのなら、野球の指導も変わらないといけない」

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