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「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル”

posted2024/01/30 11:03

 
「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル”<Number Web> photograph by Fumi Sawai

76年ぶりにセンバツに選出された和歌山県立田辺高校。カウンセラーと連携して選手一人ひとりとカウンセリングも行っているという

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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Fumi Sawai

 18人の部員、そして4人の女子マネージャーの笑顔が弾ける。

 1月26日、21世紀枠の出場校として最長ブランクとも言われる76年ぶりのセンバツに選出された。

 田中格監督は感慨深げにこう明かす。

「(21世紀枠の候補になった)9校は素晴らしい学校さんばかりで、自分たちは正直厳しいかなと思っていました。(一報を聞いて)泣くことはないと思っていましたけれど、自然と涙が出ました」

 昨秋は県大会準優勝で近畿大会に出場するも、初戦で京都国際に延長10回タイブレークの末、2-3で敗れた。何より田辺の昨秋の戦いぶりで最も印象的だったのが、県大会の準々決勝、準決勝で市和歌山、智弁和歌山を連破したことだ。

 田中監督は言う。

「組み合わせが決まった時に、市高(市和歌山)、智弁を倒さないと近畿大会には行けないのかと。うーんと……(苦笑)。周りの人からすごいくじ運やなと(言われた)。

 ただ、このチームは感情をあまり表に出さないと言うか。緊張もしないんです。喜怒哀楽を出さないんですよね。良いのか悪いのかっていうのはありますけれど」

市立和歌山、智弁和歌山…強豪校を相次いで撃破

 準々決勝の市和歌山戦。

 3回まで2-0とリードし、4回にさらに2点を加えるも1点を返された。だが、5回にさらに3点を奪い、試合の主導権を握った。

「序盤に点が取れて普通に立ち上がっていって、あれ?違うなって感じでした。これはいけるのかなっていう展開になって点差が開いていきましたけれど、どこかでバタつくのかと思ったら、それがなくて……」(田中監督)。

 試合は結局、2-9で8回コールド勝ち。田中監督からすると、“まさか”の展開だった。

 そして準決勝の智弁和歌山戦だ。ただ、この試合は終盤まで劣勢だった。2点を先行されたまま7回を迎えた。だが、7回に智弁和歌山の2番手・1年生の宮口龍斗が突如制球を乱し、満塁のチャンスを作った。押し出し四球で1点を返し、なおも満塁。そこで4番の山本陣世に打席が回ってくる。

 山本は2球目のスライダーを空振りした。だが、怯まずに再び来たスライダーをすくい上げると、打球は左翼スタンドに吸い込まれていった。

 田中監督は当時をこう回顧する。

「ホームランは想像してなかったです。あるとしたら1本出て追いついてチャンスが繋がるかと思いました。山本陣は市高戦でもホームランを打っていますが、相手がどうこうでも動じないメンタルの強さがある。だからそういうチャンスには強いのかなと思いました」

【次ページ】 強豪に公式戦初勝利も「スーッと帰ってきました」

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和歌山県立田辺高校
田中格
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