甲子園の風BACK NUMBER
「監督がカウンセラーと不登校の生徒の話を聞くことも」…《21世紀枠》和歌山・田辺高「1対1のコミュニケーション」が生んだ“鋼のメンタル”
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byFumi Sawai
posted2024/01/30 11:03
76年ぶりにセンバツに選出された和歌山県立田辺高校。カウンセラーと連携して選手一人ひとりとカウンセリングも行っているという
底知れぬ力が、76年ぶりの春を呼び込んだことは間違いない。
和歌山県は39校(昨夏時点)が県高校野球連盟に加盟する。全国的には学校数の少なさが目に留まる。
私学は智弁和歌山、高野山、初芝橋本、近大新宮、慶風、和歌山南陵の6校のみで、公立高校がほとんどを占めるが、79年に公立高で唯一春夏連覇を達成した箕島、春夏計3度の全国優勝を誇る桐蔭、夏に2度日本一となった向陽など名門校が中心となってしのぎを削り、実力差は大きくない。
広域な県土には少年野球の盛んな地域も多く、毎年、県立高校に好投手が点在している。ただ、近年は少子化の影響で、特に紀南地域の公立高校の部員の少なさが目立つ。
「僕は12年、田辺の監督をやっていますけれど最初の頃は1学年で20人くらいはいたんです。それが、4、5年前から“ここから大変なことになるよ”と少年野球の関係者から言われていたんですけれど、本当に最近は一気に子どもの数が少なくなって。1学年でなかなか10人を超えなくなってしまったんです」
「社会が変わるのなら、野球の指導も変わらないといけない」
現チームも、女子マネージャーを除けば1、2年生は各9人しか在籍していない。1学年に20人ほどいた時代に慣れていた指揮官は、一気に減った部員数に対しどう対処すればと当初は戸惑ったが、今はプラス思考をまじえて選手たちと関わる。
「少なくなった分、1人1人の子供たちにエネルギーを注げる。技術指導もそうですが、選手らの動きに目が行き届くようになりました。まあ、あまり少なすぎるのも紅白戦ができなくなるので良くないですけれど」
その中で田中監督は、ずっと抱いていたことがあった。
「20代の頃から僕は監督をやっているのですが、昔の僕は結構厳しい監督だったと思います。当時はそれでも何も言われない時代でしたし、周りもそういう監督さんが多かった。でも、今は時代が変わって、野球に関わらずスポーツを指導する監督のあり方って問われているじゃないですか。僕は今、生徒指導部長もやらせてもらっているんですけれど、社会が変わっているのなら、野球の指導も変わっていかないといけないと思ったんです」
ひと昔前ならば、怒鳴って怒って、それでもはい上がってこい、というスタンスでもまかり通っていた。でも、今の時代はそれでは子供たちはついていけず、心にも響かない。それならば指導する大人が変わらなければならない。これは今回の21世紀枠選考の決め手となった事柄でもあるが、田中監督はこれまでの姿勢を大きく変えたことがある。