巨人軍と落合博満の3年間BACK NUMBER
「なにバカなこと言ってんの?」巨人・落合博満40歳は記者に不機嫌だった…一方で「すまん」痛恨エラーの夜、“15歳年下”ピッチャーにまさかの謝罪
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKYODO
posted2023/12/10 11:01
長嶋茂雄監督のすぐ隣を定位置にしていた巨人1年目の落合博満(当時40歳)
「おい、今日はおまえの試合なんだ。完封の日だ。とにかく高さだけは間違うな」
落合はエースクラスだけでなく、若手投手や控え選手も気遣った。5月20日の阪神戦(東京ドーム)で、代打・福王昭仁が勝ち越しの1号2ランアーチを放つと、ベンチに戻った福王の頭を長嶋監督がポンポンと撫で、そのミスターのすぐ隣の席が定位置の落合は満面の笑みを浮かべ、福王に右手を差し出しがっちり握手を交わす。己の本塁打には表情ひとつ変えない無愛想な男が、伏兵の殊勲の一打を自分のこと以上に喜んでみせたのだ。
6月12日の中日戦(ナゴヤ)では木田優夫が先発したが、一塁を守る落合のエラーがきっかけでKO負け。二軍落ちの危機に直面すると、その夜、宿舎で木田の部屋のドアをノックする音がした。扉を開けると、なんと大先輩の姿。落合が自分のエラーを謝りにきたのだ。撮影でセーターの着替えや髪のセットすら嫌がる、気ままなオレ流が、野球のことになると15歳も年下の後輩に頭を下げてみせる。どちらが本当の落合博満なのか、同僚にすら分からなかったが、それは例えば、周囲に対して変わらず、いつ何時も「エリート原辰徳」であることを自らに課しているかのような振る舞いをする原とは、対照的な姿でもあった。
<続く>