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《日本勢3人目の快挙》雨でも速いマシンでもないのに、角田裕毅がファステストラップを刻めた理由とは
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2023/10/25 17:01
アメリカGPで、角田は今季4度目にして最高位の8位で入賞を果たした
ところが、不幸にも3番グリッドにはサポートレースの事故によって漏れたオイルがまき散らされており、そのオイルに足を取られた可夢偉はスタートで出遅れ、大きく後退。惜しくも表彰台には届かなかったものの、このレースで記録したファステストラップは、可夢偉を大きく成長させる記録となり、そのシーズン終盤の日本GPで報われる。再び3番手からスタートした可夢偉は、今度は好スタートを決めて、レース終盤は王者ジェンソン・バトン(マクラーレン)の猛追を抑え切って、見事3位表彰台へ駆け上がった。
今回の角田は日本人としては3人目となるファステストラップだが、前の2人とは状況が異なる。まず、今年のアメリカGPは雨ではなく、ドライコンディションだった。さらに角田が乗る今年のアルファタウリのマシンには、2012年のザウバーのように実力で表彰台を狙える速さはなかった。そのような状況の中で、なぜ角田はファステストラップを刻むことができたのだろうか。
そこには、現在のF1のルールをうまく活用したチームの戦術と、それを可能にした角田の走りが関係していた。
狙い通りの最速タイム
かつてのF1ではファステストラップは記録としての価値しかなかったが、2019年からポイントが1点与えられることになった。チャンピオンシップ争いを盛り上げるためだ。一方で、タイトル争いに加わることができない下位チームにとっても、この1点は重要なポイントとなる。現在のF1から各チームへ支払われる分配金は、概ねコンストラクターズ選手権の順位で決まるからだ。
ただし、レースの順位を度外視して闇雲にファステストラップを狙うことを防ぐために、ポイントが付与される対象は入賞者に限られている。
アメリカGPのレース終盤、角田は10番手を走行していた。ところが、その後方から地力で勝るアストンマーティンの2台がタイヤ交換をして迫ってきていた。44周目と47周目に相次いでオーバーテイクを許した角田は、11番手に後退した。現在のF1の入賞は上位10位。ポイント圏外となった角田は思わず叫んだ。