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「ジェイミーに結構怒られちゃって…」リーチマイケル“まさかのレッドカード”から2カ月…サモア戦激闘で現地記者に明かした“意外な話”
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/09/29 20:17
サモア戦に28-22で勝利した後、ファンに挨拶するリーチマイケル
実際、日本は最後の最後になって、「勝たなければ」という欲が出てしまったように思う。6点差に追い上げられてからのキックオフ、ディフェンスの局面で途中出場の長田智希がジャッカルに行き、反則を犯してしまった。ここはその欲を抑え、淡々とディフェンスに徹し、相手のミスを待つのが正解だった。まだ、日本にはナイーブな面がある。なんとか最後は難を逃れたが、これもまた、次週に向けての学習課題となるだろう。
それにしても、サモアが15人のままだったら――と想像すると、恐ろしい。
ジェイミー「7月とはまったく違うチーム」
振り返ってみれば、この試合の伏線は7月22日に札幌でリーチがレッドカードで退場していた時から張られていた。
それ以来、日本はロータックルを意識し(特にリーチの低いタックルが際立つ)、ひとり欠いた状態での戦い方も共有できていた。
これも学習能力の成果である。
今回はサモアにレッドカードという災禍が訪れた。
試合後の会見で、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはこう言った。
「7月の時とはまったく違ったチームになっている」
7月はもちろん、イングランド戦よりもはるかに遂行力に優れた日本が見られた。
「ジェイミーに結構怒られちゃって…」
リーチは言う。
「見極めがよく出来ていると思います。蹴るところは蹴って、勝負するところは勝負して、無理してアタックすることもなくバランスよく出来てると思います」
間違いなく、イングランド戦からステップアップしていることを示す言葉だろう。一方で、課題も挙げた。
「コリジョン(接点)のところでゲインされたり、引いてジャッカルを狙いに行ったりとか、そこは改善しないといけないです。あとはタックル。カードが怖くて。この1週間はタックル練習すると思います」
これだけの激闘のあとでも、ちょっぴりユーモアが感じられるのがラグビーのいいところである。
この試合、堀江翔太がシンビンで一時的退場をし、前半終了間際に日本ボールのラインアウトの機会があった。
誰が投げるの? と疑問に思っていたら、それはリーチだった。
このとき、前から2番目に投げるのを読まれ、あやうくピンチになりかけた。専門家でない以上、ここに投げるしか選択肢がなかったのだ。実は、リーチにとって試合でラインアウトスローをするのは、生まれて初めての経験だったらしい。
「ハーフタイムで、ジェイミーに結構怒られちゃって。僕は自信を持ってやったんですけど」
ユーモアのある優等生は、魅力的である。
そして10月8日。日本は4年前のスコットランド戦と同様、存亡を懸けた一戦を迎える。その日、日本はどれだけ成長しているだろうか。