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「日本はチリに“ある数字”で負けていたが…」チリ戦直後、リーチマイケルの顔が「2週間前とは全然違った」現地記者が見たラグビーW杯
posted2023/09/11 17:24
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
スリーピースのスーツを着こなしたビジネスパーソンが、きっちり仕事をした。
日本代表にとっての初戦、チリ戦の戦いぶりを見て、私は丸の内の仕事人たちを思い浮かべた。
この日のノルマは、4トライ以上を挙げての勝利、つまり勝ち点5。
試合は簡単ではなかった。
序盤にチリを勢いづかせてしまったものの、前半でトライ3つを挙げてボーナスポイントを得られる4トライはほぼ射程距離で折り返す。
ただし後半に入って、とどめを刺すチャンスがありながら判断ミスがあり、逆にチリにトライを許し、息を吹き返させてしまう。それでも後半13分にリーチマイケルがトライを挙げて、日本はノルマを達成した。
そこからは安全運転。プレーはいい意味で保守的になり、自陣22mラインの内側からは仕掛けることなく、タッチキック。
ハイパントを上げても積極的に競りあうことはなくなった。こうした状況では意図しない頭部接触が発生し、レッドカードの危険性も高まる。そうしたリスクを慎重に避け、日本はしっかりと勝ち切った。
「4年前のロシア戦とは違った」
なんだか、糊のきいた白いシャツに、スーツでビシッと決めたビジネスパーソンが、「今日の仕事、やらせていただきました」といった風情だった。
選手たちの喜び方も爆発ではなく、安堵や充実を感じさせるものだった。
感慨深いのは、ワールドカップで日本がきっちりした形で勝ったのは、初めてかもしれないということだ。格上として、面白味には欠けるかもしれないが、きっちりと勝つ。大事なことだ。
前回大会の初戦ロシア戦では、勝ち点5は獲得したものの、ミスが多発してどこか落ちつかなかった。前々回の3試合目、サモア戦では勝ち点5を取ることは出来なかった。
こうした歴史と経験を積み上げてきた日本は、きっちりした仕事が出来る国になった。
ワールドカップでは直近10戦で、なんと8勝2敗である。
「チリは悪魔のように…」
保守的な日本にかわって、この試合をエキサイティングにしたのは、チリだった。