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「始まってすぐ、たぶん軟骨が折れて」具智元が涙に暮れた日…救いとなった一言「任せろ、俺たちがベンチにいる」<2019年負傷退場からの復活劇>

posted2023/09/30 11:01

 
「始まってすぐ、たぶん軟骨が折れて」具智元が涙に暮れた日…救いとなった一言「任せろ、俺たちがベンチにいる」<2019年負傷退場からの復活劇><Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

今大会、イングランド戦では負傷退場もサモア戦で復活出場を果たした具智元。じつは2019年W杯でも負傷退場からの復活劇を見せていた

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

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Kiichi Matsumoto

 ケガを負いながらサモア戦まで3試合連続で出場を果たしている具智元(ジウォン)。ジャパン不動の3番はイングランド戦で負傷により退場も、サモア戦では流血するもテーピングで止血し、最前列で日本の勝利に貢献してみせました。その原点と2019年にもあった負傷からの復活劇を明かしたインタビュー記事を特別に無料公開します。
 ※初出は2019年12月26日発売のNumber993・994号掲載、具智元「スクラム、きれいに割れました」、肩書などはすべての当時のもの

W杯のあった2019年末に話を聞いた

 吠えた。泣いた。そして笑った。

 すると、みんな、幸せになった。なんというのか、もう、とろけちゃった。具智元(グ・ジウォン)。秘めたつもりで、なお、隠し切れぬ闘争心。波にさらされる船を海に落ち着かせるイカリのごときスクラム。ドルにも円にもウォンにも換算できぬ最高のスマイル。縁の下の力持ちは、ワールドカップ(W杯)におけるジャパンの快挙とともに列島の人気者になり、老若男女に心の平穏を授けた。

「愛されるグーくん」から「国際的スクラメージャー」へ。このほど日本国籍取得、韓国に生まれ、中学生で海峡を渡ったホンダヒートの25歳は、さらに上昇気流をつかむだろう。三重県鈴鹿市のクラブハウスで「あのとき」と「これから」を聞いた。

2年生でU17日本代表に

――南アフリカとの準々決勝からそれなりの時間が過ぎました。いまの心境は?

「そうですね。高校2年のときから絶対の目標として頑張ってきた大会に出られて、しかも終わったあとにも応援されている感じがして。ラグビーの注目度が上がって、始まる前とは全然違う。いま、夢のような気持ちです。本当に」

――大分県佐伯市の公立中学から日本文理大学附属高校へ進み、2年生で、U17日本代表に選ばれた。そのときからW杯を意識していたわけですね。

「はい。ジャパンのジャージィを初めて着て、あれからずっと出たかった大会でいい成績を残せました」

――12月11日の東京・丸の内のパレード、どうでした?

「すごかったです。20分間歩いて、そのあいだ、ずーっと人が待っていてくれて。道だけじゃなくて、よく見たら、ビルの中や屋上にまで人がいて」

ソウルの両親と涙の電話。

――こうなってしまえば、すべてが順調だったように思えてくる。でも、苦しい時期はあったはずです。

「7月の宮崎合宿でケガ(右手甲骨折)したときですね。タックルの練習で手から先にいってしまって。指がこう(と上へそらす)。いままで頑張ってきたのに不安で。本当、不安しかなかったです」

【次ページ】 父は韓国代表のプロップ

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