金足農は「2番手グループにも挙げていなかった」…5年前の金農旋風を見つめた“ある記者の告白”「2ランスクイズの瞬間、公式記録員席で…」

　その瞬間、公式記録員席で「あああああぁ～」という声にもならない声をあげてしまった。

　無死満塁からスクイズが成功し、一塁に送球する三塁手のすぐ後ろから、二塁走者がベースを回るのが見えたからだ。

事前予想で「2番手グループ」にも入らなかった金足農

　2018年8月18日、第100回全国高校野球選手権記念大会の準々決勝。金足農（秋田）が近江（滋賀）を相手に決めた「サヨナラ2ランスクイズ」。あの興奮は、5年が経った今も鮮明に覚えている。

　試合は4回、近江が6番・住谷湧也の右翼線二塁打で1点を先行。金足農も5回、右中間三塁打を放った1番・菅原天空（たく）を、2番・佐々木大夢（ひろむ）がスクイズで返して追いついた。

　金足農は1回戦でスクイズを2つ、2回戦でも1つ決めている。

「金農は本当にバントがうまいなあ。かつての広島商みたいだ」

　阪神甲子園球場のバックネット裏スタンド中腹の記者席内にある公式記録員席で、ぼくはそんなことを思っていた。

　なぜ公式記録員席にいたかと言えば、夏の甲子園大会では、主催者である朝日新聞社のスポーツ部記者が、交代で公式記録を担当しているからだ。ぼくは担当記者の中でも年長者だったこともあり、大会を取材しながら、毎日1～2試合はこの席に座っていた。

　金足農は大会前から注目を集めていた。大会屈指の好投手と評判が高かった吉田輝星の存在が大きい。秋田大会を取材した同僚記者も「最速150km。ボールにスピンが効いていて攻略するのは難しい」と評価していた。

金足農のエース・吉田輝星　©Hideki Sugiyama

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　ただ、投手は吉田1人しかいない。しかも、秋田大会を通じて選手交代は一度もなく、全試合を9人で勝ち上がってきた。

「吉田はもちろん、選手の体力がどこまでもつだろうか。甲子園で勝ち上がるのは難しいのではないか」

　担当記者が集まって大会を展望する中で、そんな議論をした。

　結果的に、ぼくらは金足農を優勝候補として推すことができなかった。正直に白状すれば、2番手グループにも挙げていない。

　開幕3日前、2018年8月2日付の朝日新聞朝刊に掲載された「100代王者へ6強」という特集記事では、大阪桐蔭（北大阪）、智辯和歌山、花咲徳栄（北埼玉）、横浜（南神奈川）、浦和学院（南埼玉）、龍谷大平安（京都）の6校を「有力校」として紹介。さらに星稜（石川）、広陵（広島）などを「追う10校」、愛工大名電（西愛知）、作新学院（栃木）など14校を「上位視野」グループとした。

　それに続く「旋風期待」グループの先頭に、金足農をもってきた。つまり56代表校の中で30番手以降という評価だったわけだ。

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