マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「夏の強豪はとても疲れているんだよ…」なぜ夏の地方予選は“番狂わせ”が起こるのか?<甲子園地方予選で名門敗退が続出>
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAsahi Shimbun
posted2023/07/20 17:30
初戦敗退で涙を流す智弁和歌山の選手たち。夏の甲子園には2017年から昨年まで5大会連続(2020年大会は中止)出場していた
夏になるといつも思い出すことがある。
自身の話で恐縮だが、中学時代の野球部監督の「夏・メソッド」である。出身である早稲田実業中学野球部の内田梅吉監督が夏になるとよく話してくれた。
「夏はね、ただ生きているだけでも疲れるんだ。野球をやっている君たちは、余計そうなんだから、とにかく休むこと。上手に休むことだ」
3年生の夏、東京都大会に進んだ時のことだ。
初戦の前日に、練習が休みになった。勝ち上がっても、試合のない日は休みにしてくれた。
おかげで、試合の日はいつもフレッシュな体調で、「早く野球がやりたい!」という生き生きとした意欲で、試合に臨めたものだ。結果的に準優勝という結果を残せたのは、内田監督の「選手目線のコンディショニング」のおかげだったと思っている。
「私は(早稲田実業の)高校の監督の時に失敗してね。暑かろうが、疲れていようが、練習するだけ上手くなると思って、結果的に選手たちをいじめ過ぎた。間際になってちょっと練習したって、たいして変わりゃあしないんだよ。夏は休むことですよ。上手に休んだとこが勝つんだ」
後年、話を聞いたときにはそんな述懐をしていた。
強豪だからこそ背負う「重圧」の重み
勝ち上がってきたチーム同士の試合前、フッと「きのうはどんなふうに過ごしたのかな」と思ったりしてしまう。
号令をかけながら、歩調の揃ったランニング。元気いっぱいに見える活気に満ちた足取りを見せてくれたその直後。たとえば次のキャッチボールにうつる時の動きの何気ないしぐさに、「疲れ」が見えてしまうことがある。
夏の強豪は疲れている。
ユニフォーム姿だけ見ていると、隆々たる体格にいかにも強豪らしいオーラを発散して、それだけで圧倒されそうだ。だが、強豪だからこそ背負っている「重圧」は、経験しなければ決してわからない重さなのだろう。
「夏」が試練なのは、強豪も無名校も変わらない。
毎日試合の数だけ「敗者」が生まれるのは、トーナメントならではの残酷さではある。それでも、とりわけ3年生の部員の方たちには、この夏が実り多き「高校野球の卒業式」になってほしいと、心から願うばかりである。
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