- #1
- #2
Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
甲子園で対戦した智辯和歌山バッターたちの“田中将大評”「すとんて消えて」…高嶋仁監督が北海道で聞いた「待つ」の意味
posted2022/08/17 17:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
BUNGEISHUNJU
ひとは田中将大のライバルを、今でも“あの選手”と言うのだろう。でも2006年の夏、彼を倒そうと死力を尽くした球児は他にいた。怪物のベストピッチを引き出した智辯和歌山の執念に迫る。
Sports Graphic Number933号(2017年8月9日発売)の記事『[証言ドキュメント]田中将大に、勝ちたかった』を特別に無料公開します。※肩書きなど全て当時のまま(全2回の後編/前編へ)
Sports Graphic Number933号(2017年8月9日発売)の記事『[証言ドキュメント]田中将大に、勝ちたかった』を特別に無料公開します。※肩書きなど全て当時のまま(全2回の後編/前編へ)
「帝京に負けたら、田中とでけへんやないかい!」
最初にあやうい試合をしたのは駒大苫小牧だった。3回戦の青森山田戦で、4回表が終わった時点で、最大6点のビハインド。テレビで観戦していた高嶋は、内心、「よし、よし」とほくそ笑んでいた。
「青森山田を応援しとった。駒大が負けたら、こら、うち(が優勝)かな、と」
ところが、駒大苫小牧は、そこから奇跡的な大逆転劇で勝利を飾る。
智辯和歌山も準々決勝で九死に一生を得た。帝京相手に、9回表を終えたところで、8-12とリードを奪われていた。最後の攻撃に入る前、高嶋はベンチ前で選手たちをこう鼓舞した。
「おまえら、何しにきたんや! 帝京に負けたら、田中とでけへんやないかい! 逆転してこい!」
香田監督「ぼこぼこにされんじゃないか」
1年間、愚直に140kmのスライダーと向かい合い続けてきた選手たちは、その言葉に発奮し、本当に13-12と逆転してしまった。駒大苫小牧の元監督・香田誉士史は、当時の空気感をこう振り返る。
「大会序盤で、決勝は智辯和歌山と早実だと思ってた。両チームとも、勢いが違った。そしたら、うちが準決勝で智辯和歌山と当たることになっちゃったんだけど……」
香田は「ぼこぼこにされんじゃないか」と不安で仕方なかったが、田中は自信満々だったという。
「大丈夫です、って言うから。おまえ、すげえな、と。あいつにとって智辯和歌山というのは早実以上にビッグネームだったと思う。そのぶん、気合いが入っていた」