マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「夏の強豪はとても疲れているんだよ…」なぜ夏の地方予選は“番狂わせ”が起こるのか?<甲子園地方予選で名門敗退が続出>
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAsahi Shimbun
posted2023/07/20 17:30
初戦敗退で涙を流す智弁和歌山の選手たち。夏の甲子園には2017年から昨年まで5大会連続(2020年大会は中止)出場していた
「強いところを見せようとする」のは”危険信号”
さらに「シード校」には、もう1つの危険な兆候があるという。
「相手が無名校だとするでしょ。こっちはシード校だと思ってるから、強いところを見せようとするんだな。これがダメ。いちばん危ない。かっこよく勝とうとする。まあ、これはこっち(指導者)の問題なんだけど、妙な欲っていうのかな……煩悩が出てしまうことがあったりね」
そういえば、と思い出したことがある。
あれはもう、20年、いや30年も前のことだったか。
ある甲子園の地方予選で、優勝候補筆頭と目されていた高校が初戦で部員15人ぐらいの高校と当たった。
今のコールドゲームは「5回10点差」が最短だが、当時は「3回15点差」のコールドもあった時代だ。そんな悲惨な結末にならなきゃよいが……と心配までしていたら、案の定、シード校の初回の攻撃で、連続四球からいきなり無死一、二塁となったから、目をつぶりたくなった。
ところが、いくらなんでも初回は送るだろうと思った場面の「よもやの強攻」がサード正面のゴロになり、捕ったサードがベースを踏んで、そこから二塁、一塁とボールが転送されて、まさかのトリプルプレーになってしまう。
そして、その後はやることなすこと全部裏目。よもやのエラー連発もあって、逆に無名校がコールドで勝ってしまった。終わった瞬間、球場じゅうが静まり返ったものだ。
「試合の流れってやつですよね……これも怖いんだ。相手は弱いとか、この相手なら勝てるとか、見下した途端に試合の流れが変わるんですよ。点差がちょっと開いたんで、試合の終盤に、1年生のピッチャーにも夏の雰囲気を経験させようと思って、リリーフさせたら、あっという間に5、6点取られたこともある。そんなに乱打されたわけじゃないんですよ、その代わり、ウチで守備がいちばん上手いショートが続けてエラーしたりしてね。野球の流れっていうのは、ほんとに不思議ですよ」