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ホンダ不振の真相ついに判明…「原因は車体ではない」中上貴晶の言葉に読み解くRC213Vのウィークポイント
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/07/13 11:00
8位入賞したオランダGPの中上。23年型RC213Vは従来よりもウイリーの多いマシンとなった
これまでホンダは、エンジンパワーを活かせない原因が車体にあると判断し、車体の改良に重点を置いていた。リアに荷重がかかるようエンジンの搭載位置を後ろに移動し、フロントにかかるエアロパーツの加重を減らして加速の妨げにならないようにした。しかし、どの対策もこれといった効果はなく、ダウンフォースの低減はウイリーの増大につながり、さらにエンジンパワーを生かせない方向に向かっていた。
僕もこれまで不振の根本の原因は車体だと思いこんでいたのだが、中上のコメントを聞いて、迷走の原因はエンジンにあると思った。なぜなら、これまで疑問に思っていたいくつかの点と点が、中上のコメントで見事に結びついたからだ。
カーボンスイングアーム廃止の理由
その疑問の最たるものは、昨シーズン途中まで使用していたカーボンスイングアームを今年は使用していないこと。23年型RC213Vはすべてカレックス製のアルミスイングアームを使っている。
ホンダが初めてスイングアームにカーボンを使用したのは、2018年のことだった。ほぼ同時期にドゥカティもカーボンにスイッチし、以後、カーボンスイングアームはMotoGPクラスのスタンダードとなった。ホンダがカーボンにしたイチバンの理由は、重量を増やさず強度を上げられるところにあり、そのメリットについてマルケスは「リアタイアの挙動がリニアに伝わり、アクセルコントロールがしやすくなった」と語っていた。
そうしたメリットがあるのに、ホンダはカーボンから古い仕様のアルミに戻した。その目的は、ホンダのライダーが度々コメントしている「リアの挙動が神経質でスピニングがひどい」という症状の軽減だと思われる。実際、第4戦スペインGP後の公式テストで昨年のカーボンスイングアームをテストした中上は、「まったく使えなかった」とコメントしている。去年はまだカーボンのスイングアームを使えていたが、今季は使いものにならない。つまり、去年よりリアのトラクション不足が増大していると推測できる。
それらの事実や証言から導き出される不振の要因は、ホンダがエンジンパワーを上げすぎたのではないかということだ。シーズン最初のテストで、ホンダはライダーたちに「今年のエンジンはパワーがあがっている」と伝えている。しかし、そのパワーを生かし切れていない。それはコーナーの立ち上がりで他メーカーよりも強い制御をかけ、スピニングを抑えていることからも窺い知ることができる。