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ホンダ不振の真相ついに判明…「原因は車体ではない」中上貴晶の言葉に読み解くRC213Vのウィークポイント
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/07/13 11:00
8位入賞したオランダGPの中上。23年型RC213Vは従来よりもウイリーの多いマシンとなった
2ストローク500cc時代に、ホンダはエンジンパワーを上げすぎて失敗したことがある。バレンティーノ・ロッシがタイトルを獲得した2001年ころの話だが、常勝を誇ったNSR500のエンジンのパワーを上げて、ライバルメーカーに対しさらなるアドバンテージを築こうとした。その結果、最高速は従来より10km/h以上速いモンスターエンジンを産み出したが、そのエンジンのテストをしたロッシに「こんなに速いエンジンはいらない。(ギアの上限となる)6速で加速するようなエンジンをどうコントロールするんだ」と却下された。
つまり、速さとはバランスの問題であり、レースで勝つためにはエンジンパワーがあればいいというものではない。加えて、現在のMotoGPクラスは共通ECUを採用しており、ホンダがMotoGPクラスで圧倒的強さを発揮したころのように、独自の電子制御でアドバンテージを築くのは難しい時代になっている。加えて言うなら、パワーは出したが最高速も出せていないという現状は、かなり深刻である。
そうした状況について、中上はこうも語った。
「ドゥカティはどの領域でもスピードがある。以前はブレーキングやコーナーで差を縮め、1周すればなんとか戦えるレベルだったが、いまは、そうした強みもなくなっている。KTMもアプリリアも、ホンダに比べて安定している。ホンダは、減速、加速時のバイクの動きが大きくて、いまひとつパフォーマンスを引き出せていない」
ホンダに挽回の可能性はあるか
レプソル・ホンダのアルベルト・プーチ監督は、前半戦最後のレースとなるオランダGPを終えて、厳しい現状について言及した。
「まずは、問題がどこにあるのか、そして最善の解決策を深く理解しなければならない。グランプリのマシンは新しいひとつの部品ですべてが解決されることはないし、(後半戦に向けて)ホンダはクリアなアイディアを持たなければならない」
第8戦オランダGPを終えて、5週間のインターバルを経て第9戦イギリスGPが始まる。この間のアップデートを望みたいところだが、ホンダがエンジンパワーを出し過ぎた結果、扱いにくく、車体や制御でうまくコントロールできない状態に陥っているとすれば、シーズン中のエンジン開発が禁止されている現在では、今季中の完全復活はかなり難しいのではないかと思う。
いずれにしても、これまで経験したことがない深刻な状況になったことで、ホンダは復活に向けてヒントを掴んだのではないだろうか。後半戦、あるいは来季に向け、開発、運営の手腕が問われることになる。
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