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プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人の5年目左腕・横川凱はなぜ覚醒した? エース・菅野智之の復活も支えた65歳の名コーチと“魔改造”の正体「この子はどの道を進みたいのかなって」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/07/04 17:01
今季頼もしい投球を続ける横川
久保コーチのメッセンジャーへの見立てはこうだった。
「最初、力を溜めようとしすぎて右足を軸にして、それから手が横殴りのような投げ方だった。あれだけの大男なのに手が横になって、左肩が開いたら通用しないなと思って見ていました。ただ、本人のプライドもあるし、とにかくコテンパンに打たれるまでは見ていようと思っていたんですね。で、いよいよダメでファームに行くにあたって、いまの横振りの投げ方をもっと縦軌道に変えないか、と話をしたんですね」
そしてメッセンジャーの“魔改造”のボタンは、カーブだったのである。
阪神・メッセンジャーの大逆転人生
「彼は昔、カーブを投げたらしいんですよ。でも日本に来た頃は、スライダーばかりを投げていて、それもあってだんだん手が下がってくるわけです。でも練習で見ていると、彼のカーブは縦カーブで、その縦のカーブを投げるときは、手の位置が高く上がってくる。真っ直ぐを投げるときも、その位置に手を入れてこい、と。あの角度で真っ直ぐも入っていったら、角度がつくし日本人はなかなか打てなくなるから、と。そこからメッセンジャーの大逆転人生が始まったんですね」
阪神ではメッセンジャーだけでなく、後にエースとなる能見篤史投手らも指導。それ以前の近鉄時代には大塚晶文投手(現中日投手コーチ)や岩隈久志投手など、後にメジャーリーグで成功する投手たちの覚醒を手助けした。またソフトバンクでも伸び悩んでいた髙橋純平投手や大竹耕太郎投手(現阪神)、板東湧梧投手らの成長を見守っている。
「原理は原理でしかない」
久保コーチは基本的には打者方向へ動く運動エネルギーを利用してボールを投げる、という理論だ。しっかり体重移動しながらステップして、足をついたら傾斜を利用しながら縦回転で打者方向に倒れる。そのパワーを使ってボールをリリースする。
これが投球の原理だというが、同時に「原理は原理でしかない」とも言う。投手によって体格も骨格も、体の柔らかさも違う。指導のポイントは全て異なるというところが、これだけ多くの投手に“魔改造”を施し、多くの成果を挙げてきた理由なのである。
「見るところも、教えるところも違う。全部違う。このピッチャーはどこのネジをしめるのか、どこのネジを緩めるか……。僕は足を使えないピッチャーには、逆に手投げをやらせる。ボールを持った手を、いかにうまく使えるようになれるか。『手だけで投げてごらん。足のことは放っておいて上半身で100%のボールを投げてごらん』って。で、投げるじゃないですか。そうすると足が使え出してくるんです。だって上半身を強く使おうと思ったときに、下半身が軟弱で、踏ん張っていないと、上は走りませんから。で、『ほら、足使っているじゃん!』と。反対の導き方というのもある。この選手はどっちの方向へ向かって触るのかなっていうのが大事。そのために見る準備期間が必要です。彼は何で悪いの? 何でうまくいかないの? というのを観察する時間が必要です」