そこで体の回転を横から縦に直すために、テークバックで下がっていた右手を、上にあげるように改造した。

「テークバックで上に上げれば、次の動きで下にスペースができる。そのスペースにグラブをポンと落とせば、左手はつられて上に上がるってことですね。彼に教えたのは、端的に言えばそれだけです」

ボールの勢いも一変

　そうして右手の動きを意識することで、ボールの勢いも変わった。さらに今までどこか自分の中でもギクシャクしていた投球フォーム自体が、スムーズに流れるようになった。

「本人は抱えていたすべての問題の解決が始まって『だからだったのか……』っていう感じだったみたいですね。それで本格的に投げ始めたら、明らかに手応えがあった。ボールも速くなりました。今年が初年度なので、まだまだ苦労するかもしれませんけど、『自分の行く道はこちら側にある』というのは掴めたんじゃないかと思います」

力投するメッセンジャー（2019年）

　原辰徳監督命名の「タワマン投法」で、横川は迷宮を抜け出し、本格的にプロとしての1歩を踏み出すことができた。“魔改造”が“魔改造”たる所以がそこにある。そして同じように久保コーチの手によって沼を抜け出し、本格化への道を歩き出した投手は多い。

炎上続きのメッセンジャーに…

　いまでも語り草となっているのが、2010年代に阪神のエースとして活躍したランディ・メッセンジャー投手の“魔改造”だった。

　2010年シーズンから阪神でプレーしたメッセンジャーは、当初はセットアッパー候補として期待されていた。しかし開幕直後からリリーフ失敗が続き、4月23日にはファームでの再調整を命じられてしまった。そのとき一軍投手担当だった久保コーチが、こんな提案をしたのである。

「いまの横から出ている手を縦に起こして、カーブでそれを調整したらどうだ？」

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