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藤井聡太七冠・新名人「羽生先生の七冠は全冠制覇で特別」に元A級・田丸昇73歳「さらなる金字塔を」、加藤一二三83歳の言葉は… 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2023/06/03 11:04

藤井聡太七冠・新名人「羽生先生の七冠は全冠制覇で特別」に元A級・田丸昇73歳「さらなる金字塔を」、加藤一二三83歳の言葉は…<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

名人戦第5局を制した藤井聡太・新名人

 2021年の名人戦(渡辺名人-斎藤慎太郎八段)第4局でも、「藤井荘」は対局場になった。ただ当時は新型コロナウイルスが蔓延していた時期で、感染対策のために大盤解説会は小規模で行われ、村民チャンネルでライブ配信された。

 渡辺名人はその第4局で斎藤八段に勝って3勝1敗とし、第5局も勝って名人戦で初防衛した。藤井竜王は数年前の夏に家族旅行で訪れたそうで、涼しくて緑が美しい景色に感動したという。渡辺にとっては縁起がよく、藤井にとっては思い出深い対局場であった。

 ちなみに、「藤井荘」の女将は藤井聡太と同姓のよしみから、4年前に名人戦実行委員会に開催を打診した。そして、今年の名人戦で藤井の対局を実現することができた。

人口約6600人の高山村が将棋一色に

 2023年の名人戦第5局はコロナ禍が収まったことで、前夜祭は村内の会場で開かれた。大盤解説会も行われ、200人の将棋ファンが各地から集まった。事前予約制のために会場に入れなかった人たちは、藤井が「おやつ」に食べたお菓子を土産に買っていた。人口が約6600人の高山村は全国から注目され、まさに将棋一色になっていた。

 1日目の午後には谷川浩司十七世名人が現地を訪れ、講演会を行った。谷川は21歳2カ月で名人を獲得した最年少記録を持っている。その記録を更新されることに、昨年までは複雑な思いがあったそうだが、20歳で将棋界を背負っている藤井に破られるなら、光栄なことではないか――と思うようになったという。

 名人戦第5局は渡辺の先手番で始まった。序盤の出だしは渡辺の注文で「角換わり」の将棋が予想されたが、後手番の藤井が△4四歩と角筋を止めて「雁木(がんぎ)」の駒組みを築いた。渡辺に敗れた第3局と同じ指し方だった。

後のない渡辺の立場を表していた作戦とは

 渡辺はそれを想定していたようで、短時間である駒組みを築いた。第1図はその部分局面。

 藤井の玉の囲いは第3局と同じだが、渡辺の玉の囲いは第3局の「金矢倉」ではなく、「菊水矢倉」と呼ばれる囲いだった。

 菊水矢倉には、玉を下段に囲って低く構えることで、相手の攻めから少し離れる利点がある。守りよりも攻めに重点を置いている。後のない渡辺の立場を表している作戦といえる。

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