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藤井聡太七冠・新名人「羽生先生の七冠は全冠制覇で特別」に元A級・田丸昇73歳「さらなる金字塔を」、加藤一二三83歳の言葉は…

posted2023/06/03 11:04

 
藤井聡太七冠・新名人「羽生先生の七冠は全冠制覇で特別」に元A級・田丸昇73歳「さらなる金字塔を」、加藤一二三83歳の言葉は…<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

名人戦第5局を制した藤井聡太・新名人

text by

田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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Keiji Ishikawa

 5月28日の第8期叡王戦五番勝負第4局で藤井聡太竜王(20=王位・叡王・棋王・王将・棋聖を合わせて六冠)は、挑戦者の菅井竜也八段(31)を3勝1敗で下して叡王戦で3連覇した。藤井は4日後の6月1日に、挑戦していた第81期名人戦七番勝負第5局で渡辺明名人(39)を4勝1敗で破り、「名人」の獲得と「七冠」の取得を20歳10カ月の最年少記録で達成した。全冠制覇の「八冠」の偉業も可能になった藤井将棋と対局の模様について、田丸昇九段(73)が解説する。

叡王戦、藤井は苦しいシリーズだったが…

 藤井竜王は叡王戦までの過去13期のタイトル戦では、対戦相手の棋士がすべて居飛車党で、矢倉、角換わり腰掛け銀、相掛かりなどの戦型になった。

 振り飛車を武器にする菅井八段との叡王戦の対局(1日制で持ち時間は各4時間)では、全局が藤井の居飛車vs菅井の振り飛車という対抗形で戦われた。相居飛車ではともに敵陣を「縦」から攻めるが、前記の対抗形ではともに敵陣を「横」から攻める。藤井は少し勝手が違ったのか、全体に苦しいシリーズだったという。

 特に叡王戦第4局は、10時51分と18時32分に2回も千日手(同一の手順や局面が繰り返されて無勝負)が生じて指し直しとなった。2回目の指し直し局も千日手の懸念があったが、菅井は気が引けたそうで回避した。一方の藤井は心身ともにタフで、4局目も辞さずの構えだった。

 寄せ合いになった終盤の局面で菅井に疑問手が出た。勝勢になった藤井は、AI(人工知能)も見落とした鮮やかな23手詰めで相手玉を仕留め、叡王戦で3連覇した。

 叡王戦第4局の対局場は岩手県宮古市。藤井は対局翌日に三陸鉄道・宮古駅に隣接する車両基地を見学した。そして、鉄道員の制服と制帽を着用すると、運転席に乗り込む許可を特別に得て、気動車を70メートルほど運転する体験をした。また「一日駅長」を務め、釜石行きの車両に向けて「出発進行」のポーズをとった。「電車の運転士になりたかった」という藤井にとって、とても楽しい興奮した初体験だった。

「藤井荘」の女将が熱望して実現した名人戦

 藤井はその翌日、3勝1敗で迎えた名人戦第5局が行われる長野県に、充実した気持ちで移動した。

 名人戦(渡辺名人-藤井竜王)第5局は5月31日、6月1日に長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」で行われた。

 長野県の北東部の山田温泉にある対局場は三方を山で囲まれ、客室の窓からは松川渓谷の絶景を眼下に眺められて風光明媚だという。創業200年以上の老舗旅館は、森鴎外、与謝野鉄幹・晶子、菊池寛らの文人墨客にこよなく愛された。

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