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“爆発的に跳ぶ”ために毎日“腹筋500回”!? バレー古賀紗理那ジャンプ改造計画…スピードのプロが絶賛する理由「楽しみな夫婦ですね」 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/06/02 11:05

“爆発的に跳ぶ”ために毎日“腹筋500回”!? バレー古賀紗理那ジャンプ改造計画…スピードのプロが絶賛する理由「楽しみな夫婦ですね」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

Vリーグ制覇、皇后杯優勝に貢献した古賀紗理那(NECレッドロケッツ)。ジャンプ改造に着手したことでスパイクに余裕が生まれた

 古賀が特化して取り組んだのは「ジャンプ」だった。里氏は目指す最終形をゴールとして、ジャンプの過程を5段階に分けた。

 移動から腕のスイング、前傾、踏み切り、身体を起こす力やタイミング、跳び出しや肘の角度などジャンプ動作を11の動きに細分化し、パラパラ漫画のごとく、1つ1つの動作がしっかりとできているかを見定め、欠点を明確にした。

 古賀が最初に取り組んだのは、足裏のポジション(位置)。人間の身体には左右差があり、足裏のポジションも左右で微妙に違う。古賀の場合は右足裏の重心が外側にかかるクセがあった。

「足裏の前部を“勝ちポジション”、後部を“負けポジション”と区分して伝えました。わかりやすくイメージするならば、2人1組で押し合いをした時、足裏のどこに重心が乗れば倒れて、どこに乗ると倒れず踏ん張れるか。その境界線を自分で知ることからがスタートです。前後がわかったら、今度は内側、外側。どちらにエッジがかかっている(体重が乗っている)か。内側であればすぐに移動できるのですが、外側の場合は一度内側に戻してから一歩踏み出すことになるので、この“戻す”動作が無駄。その“1コマ”の動きに差が生じます。まずはこの余分な1コマを削るところからスタートでした」

 次の動作へいかにスムーズに入れる重心をつかむか。練習時から、レシーブの後の攻撃に入るタイミングやスパイクの後に切り返して下がる動きなど、古賀は常に“連動”を意識し続けた。自らの身体で感覚をつかみ、体現する中で悪癖を取り除く。その速さが圧倒的だった、と里氏は証言する。

「古賀に限らず、僕が見たバレーボールの選手たちはどこからがグッドで、どこまでがバッドなのか、プレー以外でその線を引かれたことがなかったのだと思います。だからその線を引いて、感覚を言葉にするプロセスを知ると、今まで何となく知っていたことが言語化され、『そうだったのか』と納得できる。古賀はまさにそうで、1つ1つの動きを繊細に言語化していくと、『あ、そうです。そこです』と彼女の感覚の扉が1個ずつ開いていきました。

 大事なのはそれを自分の動きで再現できるか。古賀は人の3、4倍の時間をかけて繰り返しやり続けます。なおかつ、そうやって培ったものを試合で出すスピードが速い。他の人と比べても3分の1ぐらいの速さでやってのけていました。(他競技のアスリートを含めても)あれほどの選手はなかなかいません」

爆発的に跳ぶために“腹筋500回”

 古賀の探究心とスピード感はジャンプ習得でも大いに生かされた。

 爆発的に跳ぶために、クリアすべき3つのステップがあった。

(1)つぶれない棒(身体、体幹、脚)をつくる
(2)ボールに強い力を加えるためにジャンプの2歩手前からの助走を速くする
(3)しっかり沈み込みパワーを溜める(沈み込み速度と立ち上がりの鳩尾のコントロール) 

 古賀の場合は、沈み込んでから腕を振り上げて跳び出すまでの過程に課題があった。里氏は良い時と悪い時の映像を見せてそれを指摘した。古賀が苦手とする動きに近いエクササイズをさせると案の定できない。ほらね、とばかりにその必要性を説き、オリジナルの腹筋メニューを課した。「これが、身体が縮むのを防ぐメニュー」「空中で滞空時間を長くするにはこれ」と目的と共に提示したことで、古賀は嫌がるどころか目を輝かせたという。

「(腹筋のトレーニングメニューは)全部で60種類ぐらいあるのですが、古賀に課したのはそのうち20種類。回数にすればトータル500回ぐらい。決して簡単なトレーニングではないですが、『やれば自分のできないことができるようになる』とVリーグのシーズン中も毎日取り組んでいました」

 その成果が皇后杯で見せたジャンプであり、空中で余裕を持って放っていたスパイクだった。

【次ページ】 「里さん、西田ってわかりますか?」

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