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箱根駅伝“意外なデータ”を発掘「駒澤大OB田澤も青学大OB近藤も高校時代はトップクラスではなかった」現役大学生に教えたい“4年間の伸びしろ”
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/30 17:00
箱根駅伝を盛り上げた駒澤大の田澤廉(4月からトヨタ自動車)、青学大の近藤幸太郎(同SGホールディングス)。高校時代の記録を調べると意外な発見があった
こう見ていくと、大学選びはひじょうに重要である。この大会で区間上位に入っている選手の中にも、競技を辞めてしまったり、伸び悩んでいる選手もいる。練習メソッドの違い、環境への適応力など様々な要素が絡み合うが、どの大学を選ぶのかによって人生が変わる。
5区で興味深いのは区間6位以降の選手たちだ。
6位にいるのは、なんと田澤廉(青森山田→駒大)だ。
駒大の顔であり、世界陸上にも出場した田澤でさえ、この時は区間賞には手が届かなかった。逆にいえば、高校時代はそこまで追い込んでおらず、大学に入ってからの伸びしろが大きかった――という見方ができる。また、大学で1年後輩になる花尾恭輔(鎮西学院)もこの区間を走っていた。
ここでは、大学でキャプテンを務めた人材もそろっている。早大の鈴木創士(浜松日体)、東洋大の前田義弘(東洋大牛久)、中大では4年連続で山下りを担当した若林陽大(倉敷)が5区を走っており、大学で順調に力を伸ばしたといえるだろう。
「高校での成績は絶対ではない」
振り返ってみると、この大会で注目されたのは、1年生で好成績を収めた石田や、5区で強さを見せた佐藤といった下級生だった。
今年の箱根を盛り上げた吉居大和、近藤、田澤についていえば、まだ磨きがかけられておらず、原石の状態だったといえる。
2年生だった吉居はシニアへの準備段階であり、高校3年になって飛躍。翌年には1区を走り、区間賞を獲得している。
近藤については全国的には無名の状態だった。周辺取材を進めていくと、高校では徹底した体作りを行っており、それが青学大の距離を重視する練習に向け、格好の土台作りとなったようだ。都道府県駅伝4区26位は、近藤にとっては登竜門に過ぎなかった。
そして田澤については、この時から大器との評判が高かった。田澤の通った青森山田高校を指導する河野仁志先生は駒大の卒業生であり、早い段階から大八木監督のリクルーティング・レーダーに田澤の名前は挙がっていた。インターハイの5000mでは日本人2位となる7位でフィニッシュ、しかし駅伝に極端にシフトすることなく、大学への準備を進めていた様子だ。
成功を急ぐ必要はない。
早すぎる成功は、逆にリスクを孕みさえする。
4年前の都道府県対抗駅伝の結果からは、大学での開花を待つことの重要性が見えてくる。
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