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出場2打席でも…前回WBCの控え捕手・大野奨太が明かす“ベンチ侍”の仕事の流儀 小林誠司、炭谷銀仁朗と話したことは
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/02/24 06:00
WBC前年の2016年秋に行われたオランダとの強化試合では劇的なサヨナラ安打を放った大野
小久保ジャパンの侍は28人。うち捕手に3人を割いたのは妥当なところだろう。小林誠司(巨人)、嶋基宏(当時楽天)と大野。しかし、大会直前に嶋の故障辞退により炭谷銀仁朗(当時西武)が緊急招集される。チームが中心に据えたのは小林。エース格の菅野智之(巨人)との相性も考慮されたのかもしれない。
一方の大野も前年はキャリア最多の109試合に出場し、ゴールデン・グラブ賞に選ばれている。捕手としての能力や打撃力、経験値に大きな差はなかったはずだが、あるいはその2年前に最優秀バッテリー賞に選出された大谷翔平(当時日本ハム)のコンディション不良による辞退(代替選手にソフトバンク・武田翔太)の影響はあったのかもしれない。大谷が登板する試合には、気心の知れた大野を最優先で起用したはずだからだ。
「いや、自分としては誰が出るとかは意識してなかったんです。要請を受けた以上はチームにやれと言われたこと、任されたことをやるというか。一致団結、ひとつのチームだって感覚でしたよ」
自チームに戻ればレギュラーでも、代表となれば控えに回る。捕手に限ったことではないが、固定起用される傾向が強いポジションだけに、出番は極度に少なくなる。大野と同じように、炭谷は出場は2試合だが打席はゼロ。それでも大野に不満や後悔はなかったという。
控え捕手の役割とは…小林と炭谷と過ごした時間
「控えだから難しいという感覚はなかったです。(自チームの)キャンプで受けていないというのはあったけど、大きな違和感はなかった。だって選ばれたことが光栄でしたから。WBCはそれだけ名誉ある大会。僕にとって一番印象に残っているのは第2回大会(2009年)なんです。ダルビッシュが最後、三振に打ち取って世界一になったじゃないですか。僕は日本ハムに入団直後。ダルビッシュとは同学年で、出会った直後ということになります。あの雄叫びをあげる姿が、今も映像で頭に残っていますから」
出られない悔しさや、練習時間を取れないもどかしさよりも、選ばれた誇らしさと責任感が勝っていた。それだけの価値がWBCにはあったということだ。
控え捕手は悲哀ではない。大切な役割がある。先発で出続ける小林にも、強烈な重圧がかかる。普段バッテリーを組まない投手の特長を引き出せるか。日々変わり、長所も短所もわからない打者をどう攻めるか。そこをサポートしたのが大野と炭谷だった。
「3人一緒のミーティングはよくやりました。とにかく共有する感覚。相手の映像を見て、どのゾーンが危険か。誰が試合に出ようが、日本代表なんだという意識でしたね」