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「賛否両論あると思ってます」 大迫傑がニューイヤー駅伝を走ったワケ…あの区間賞チームメイトには「1秒1万円の罰金な」と冗談も
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byShota Matsumoto
posted2023/01/29 17:00
プロランナーとしてGMOインターネットグループに「参画」し、ニューイヤー駅伝に出場した大迫傑がその真意を明かした
大迫 今回は自分にできないことは誰かに任せればいいんだということを学びました。日本の指導者って練習のことだけじゃなくメンターとしての役割も担わないといけないという風潮があるけど、アメリカのように役割分担をしてもいいと思います。
ランの練習メニューを考える人、ウェイトトレーニングを考える人、年間のスケジュールに意見をくれる人、そしてメンター。色々な人が関わってくれて、それぞれとコミュニケーションをとって目標を達成できれば、自分の努力だけで掴みとるのとは違う喜びがありますよね。成功体験やそのプロセスをみんなで共有できるというか。
僕は現役の選手である以上、やはりコーチとして関わるすべての選手の練習に立ち会えるわけではないし、そうしてしまうと僕自身の目標が達成できなくなってしまう。今回は、選手としての自分が希望する場所でやりたい練習をこなしつつ、他の選手に自分の考えを共有するための方法論がわかったし、どういう風に周囲の人の協力を得ていけばいいかもわかりました。今後の活動全般にとって、とても発見が多かったですね。
「スイッチをオンにできたとき」が嬉しい
――2020年から「Sugar Elite Kids」という子ども向けのプログラムを全国各地で実施されています。トップアスリートを教えるのとは違うと思いますが、子どもたちと接してみて何か発見したことはありますか?
大迫 子どもたちには体を動かすランニングプログラムと、座学的なワークショップをやっているのですが、一番手ごたえを感じるのは彼らの「スイッチをオンにできたとき」ですね。僕やトップランナーが単発や数回のプログラムで走り方や練習メニューを教えても、すぐに足が速くなるわけではないです。でも、目標設定の仕方や、それを達成するためにどういう道筋を描いたかといった僕の考えに触れることで、30人参加してくれたら3、4人は心のスイッチがオンになる。それは嬉しいですね。
――スイッチがオンになるのは表情などでわかるんですか?
大迫 ランニングをしているときはわからないんですけど(笑)、ワークショップでそれぞれの目標を紙に書いてもらうと、目を輝かせながらすごく具体的なプロセスとともに目標を設定できる子がいるんですよね。自分の目標に向けたチャレンジのやり方がわかってしまっているというか。そういう子は事後のアンケートでも「実際に翌日からこのメニューをやりました」と報告してくれるんです。
もちろん僕のプログラムに参加してくれるのはランニングや陸上が好きな子が多くて、走ることへの意識が高い子ほど僕への憧れもあって、スイッチをオンにしやすいと思います。でも、これがサッカーが好きな子ならワールドカップで活躍した選手と触れることで自分で考えるためのスイッチが入るはずです。
僕だけではなくアスリートの考え方に触れる機会をもっとつくっていければ、スポーツだけでなく各自の目標に対するプロセスを大切にできる子が増えるんじゃないかな、と思います。その意味で、「Sugar Elite Kids」の活動はランナー育成というよりも、幅広い意味での教育であり、アスリートだからこそできる社会貢献活動なのかなと思っています。今後もタイミングを見て、全国いろいろな場所で続けていきたいです。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。