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箱根駅伝「12秒差に3人」の劇的レース…なぜ“史上最高の2区”になった? 青学大・近藤幸太郎「(中央大)吉居は、かわいい弟のようです」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph bySports Nippon/AFLO

posted2023/01/02 20:00

箱根駅伝「12秒差に3人」の劇的レース…なぜ“史上最高の2区”になった? 青学大・近藤幸太郎「(中央大)吉居は、かわいい弟のようです」<Number Web> photograph by Sports Nippon/AFLO

戸塚中継所で3区にたすきをつなぐ直前の中大2区・吉居大和(3年)と駒大2区・田澤廉(4年)

 数年前まで、日本人選手たちは留学生にかなわなかった。抜かれても、そのまま自分のペースを刻むしかなかった。

 ところが、近藤は序盤に留学生を先行させ、ペースが落ちてきたところを拾った。これまでにはないレースパターンに、4年間、近藤が積み上げてきたものが見えた。去年秋、近藤に話を聞いた時のことを思い出した。

「3年生まで、本当に休みなく走り続けてきました。実家に帰省しても、3日と休んだこと、なかったんじゃないですかね。ところが、3年の2月からケガで7月くらいまで本格的な練習が出来ませんでした。自分の強さは練習で積み上げてきたものだと思っていたので、不安になりましたが――。いい疲労抜きになったかなと思います(笑)」

 中盤、近藤の強さが爆発した。

「昨年2区で区間賞」田澤のマネージメント

 12km過ぎ、中盤から後半へと移行していくところで、レースが動く。

 次の主役は、田澤だった。

 吉居をやり過ごしていた田澤が息を吹き返したのだ。

 12km過ぎに吉居を捉えると、徐々に引き離す。序盤、リズムよく追いついてきた吉居をさらっと先に行かせ、「俺は2区を知っている」とでも言いたげに、自重したのだった。そして中盤以降に盛り返した。

 2022年、田澤はよく走った。

 前回の箱根駅伝で区間賞を獲得したあと、7月には世界陸上にも出場。休む間もなく10月の出雲3区、11月の全日本7区といずれもエース区間を走り、全日本では区間賞を獲得している。

 百戦錬磨、終盤を前にしての田澤のマネージメント力が光った。

「青学の近藤君と一緒に…」

 そして、13km過ぎにまたも主役は交代する。今度は「近藤劇場」の到来だ。

 なんと、並走していた2人の留学生を引き離したのだ。

 さらには14.3km地点で2位を走る吉居を捉える。入学時は、青山学院の同級生のなかでも下から数えた方が早かった近藤が、まさにエースらしい走りを見せたのだった。

 しかし、これが吉居には幸いする。レース後のインタビューで、吉居はこう話した。

「中盤は苦しかったんですけど、青学の近藤幸太郎君と一緒に……つかせてもらって、最後、頑張れたかなと思います」

 近藤と吉居は並走しながら、田澤の背中を追った。

「練習不足もあって…」

 21km過ぎ、吉居が出て、田澤に迫る。

 近藤は力尽きたか――と思われたが、再び盛り返す。

 中継所まで残り100m、誰が最初にたすきを渡すのかまったく予想がつかない。そして――3人の中ではスプリントがいちばんある吉居がスパートを見せた。吉居は笑顔でたすきを同級生の中野翔太に渡した。

 田澤も、近藤も粘る。わずかに田澤が先着し、たすきを渡したが、本当に余裕がなかったのだろう、田澤がたすきを外したのは、中継所の手前、10mを切ってからだった。往路終了後、芦ノ湖畔で田澤はレースをこう振り返っている。

【次ページ】 「練習不足もあって…」

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