マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球の名将「“野球の上手い子が逆上がりできない”ってよくあるの、知ってます?」甲子園優勝監督が岡山で“単身赴任”…驚きの毎日
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/31 17:01
門馬敬治監督。1999年から22年にわたって、東海大相模高監督を務め、甲子園春3回、夏1回優勝。この夏から岡山で新たな挑戦をスタートさせた
実は、私自身がその一人である。
「アメリカの高校生が、冬のアメリカンフットボールで、あの変形のボールをまっすぐ投げようとして、正しい腕の振りを覚えるとか……複数のスポーツをすることで、体の動きのバリエーションは必ず増える。野球の実戦って、思いがけないボールの動きとか人の動きがよくありますから。練習したことないからエラーしました……じゃ、すまないわけで、とっさにアウトにするための動きや、セーフになるための動きができないと。甲子園とか、レベルの高い戦いになるほど、とっさに何ができるか……そこが、勝負に直結してくるんです」
プレー以外での効果も期待している。
「野球しか知らないと、野球もわからなくなってくるように思うんですよ。壁に当たった時に、どんな切り抜け方をするか。考え方にバリエーションがあると、ずいぶん違う。発想の広がり、視野の広がり。こっち側から考えるとこうだけど、反対側から考えたらこうかもしれない。思考の切り口が増えたら、思い詰めるってことがなくなると思うんで」
「ファーストベース回って、もうベースコーチ見てる…」
自分の判断で、自分から動ける選手。そこにもつながってくるという。
「ファーストベース回って、もう(三塁の)ベースコーチ見てるバッターランナーが結構いたんです。打った球、見えてるんですよ。指示がないと動けないんじゃ、やってる本人がいちばんつまんないと思うんですよ。ベースコーチのいないシートバッティングとか、試合形式の練習やったりしてるんです」
なんなら、いっそ監督さんのいない紅白戦だって、いいんじゃないか。選手同士がサインを出し合って。監督さんは、見物役にまわって。
「岡山は野球の国です。岡山東商、倉敷工業、倉敷商業……甲子園の常連、名門がいくつもあって。星野仙一さんはじめ、平松政次さん(岡山東商、元大洋)、松岡弘さん(倉敷商、元ヤクルト)……偉大な野球人の出身地でもある。中学野球のレベルも高いですよ、硬式も軟式も。兵庫、広島……負けず劣らず野球熱の高い県に挟まれて、やりがいのある土地だと思ってます」
今は野球部の指導だけだが、来春、新学期からは社会科教員として、授業を持って教壇に立つ。
「学校での選手たちを見たいんです」
今、それができないのが、なんとももどかしそうだ。
「学校での過ごし方を見ていると、彼らの人としての輪郭が鮮明になってくる。人という立体としての彼らが見えてくる。それを見定めて、そこからが本当の“指導”になってくると思うんです」
試合と試合の合間の、そんなに長い時間じゃなかった。
それなのに、これだけの「意気込み」が門馬監督から発信された。おそらく頭の中には、この先の「創志学園」という新たな宇宙での展開が、具体的なプランとしてぎっしり詰まっているのだろう。