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サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「日本の育成ではメッシやエムバペのような“特大の個”は育たないのか…?」中村憲剛がW杯決勝後に感じた“個と組織”のジレンマ
text by
中村憲剛+戸塚啓Kengo Nakamura + Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2022/12/24 11:01
カタールW杯を通じて規格外たる所以を示したアルゼンチンのリオネル・メッシとフランスのキリアン・エムバペ。決勝戦でも“特大の個”を見せつけた
中村憲剛が感じる「個と組織」のジレンマ
僕自身も過去に「特別な個」と言える外国人選手と、プレーをした経験があります。僕のプロ1年目と同じ2003年に川崎フロンターレに加入し、11年まで在籍したジュニーニョです。
彼は03年から10年まで、8年連続で2ケタ得点を記録しました。04年にJ2で、07年にはJ1で得点王になりました。
当時のフロンターレは3-5-2や3-4-3を採用していて、ジュニーニョは2トップや3トップの一角で使われていました。
基本的には前残りでいいということで、周りの選手のハードワークでその穴を埋め、彼には攻撃で最大限力を発揮してもらう形でした。
彼の爆発的なスピードは、相手を引き込んでカウンターという狙いにふさわしかったでしょう。ただやはり、彼も人間です。毎試合スーパーではないので、相手に抑えられたり、調子が悪かったりすることもありました。攻撃は水物でもあるので、うまくいかない試合がどうしても出てきてしまいます。
戦い方を保てないこともありました。守備時にジュニーニョのところを突かれて失点したり、決定機を作られたりすることがありました。彼の貢献度は本当に大きかったのですが、ともにタイトルを取ることは残念ながらできませんでした。
その後、フロンターレは堅守速攻のスタイルから攻撃ではボールを握って能動的に崩し、守備では相手にスキを与えないスタイルになっていき、鬼木達監督のもとでJ1リーグ初優勝をつかみます。そのときの僕は、「相手を見てボールを持って能動的に崩しながら、守備ではチーム全員がハードワークすることで勝利が見えてくる。これが世界と戦う日本の筋道だ」と思いました。その成功体験は、指導者としての「芯」として根づいています。
しかし、カタールW杯が終わったいま、果たして本当にそれだけでこのクラス相手に勝てるのだろうか──とも感じる自分がいました。
個人が伸びる余地はもちろん残したいけれど、世界のトップクラス相手にはしっかりとした守備組織を構築しなければならない。「個も組織も」と書きましたが、「個」を優先したら「組織」はゆがみます。「組織」を取ったら「個」は伸びません。今回のW杯をこのような目線で観たことで、このテーマについて深く考えていますが、これは僕が気づいていなかっただけで、日本の指導者のみなさんはずっと抱えてきた問題なのかもしれません。
<後編へつづく>