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サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「日本の育成ではメッシやエムバペのような“特大の個”は育たないのか…?」中村憲剛がW杯決勝後に感じた“個と組織”のジレンマ
text by
中村憲剛+戸塚啓Kengo Nakamura + Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2022/12/24 11:01
カタールW杯を通じて規格外たる所以を示したアルゼンチンのリオネル・メッシとフランスのキリアン・エムバペ。決勝戦でも“特大の個”を見せつけた
日本の指導環境ではメッシやエムバペは育たない?
指導者の立場で言うと、守備の立ち位置を考えた時にシステム間のすき間を埋めること、穴を作らないことで相手の侵入を防ぐことを第一目的にしたくなります。しかしそうすると、彼らの爆発的な個が表現される機会が減ってしまう。それならば、ある程度彼らの守備の役割を限定し、周りの選手が彼らのぶんをカバーしたりスライドしたりすることで、攻撃時に彼らの能力を最大限発揮してもらう。アルゼンチンのスカローニ監督とフランスのデシャン監督は、そのような形を構築していました。
近年のサッカーにはポジショナルプレーや5レーンといった概念が浸透していますが、W杯の決勝にその2チームが残ったことで、そもそもトレンドとは何だろう、と考えてしまう自分がいます。
日本サッカー協会でロールモデルコーチを拝命している僕は、育成年代の選手たちに「ハードワーク」や「素早い切り替え」の重要性を伝えています。「守備のときにはまずきちんとポジションを取ろう」と言ってきましたが、選手たちから「メッシやエムバペはそこまで守備をやってないじゃないですか」と言われたら、果たして何と答えればいいのか。
「守備はそこまでやってないかもしれない。でも、彼らはそのぶん得点やアシストでチームに貢献しているし、監督が形を変えることで守備の穴を作らないようにしているから成立するんだぞ」と説明しても、選手たちは違和感を覚えるかもしれません。
僕自身も考えるところがあります。
FWの選手に守備を求め過ぎたら、メッシやエムバペのような「特大の個」が育たないのではないだろうか、という考えが頭をもたげます。
FWにそう言わなければいけない時点で、日本はまだそのレベルなのだ、と分析する自分もいます。いま現在の日本を見渡せば、守備のタスクをチームメイトに肩代わりさせるような特大の個を持つ選手はいません。しかし、11人でしっかり守備をするスタンスを取り続けていくと、そういう選手が出現する可能性を摘んでしまうことになる。小学生年代では出てきても、成長する過程でその芽を摘んでしまうかもしれない。そう考えると、規格外の個は永遠に出てこないかもしれません。
FWの守備の負担を軽減させるには、DFのキャパシティも問われます。横幅68メートルを4バックで守ることができれば、そのぶん前線に人をかけられる。しかし組織で守ることを最優先し続けていたら、「特大の個を持ったDF」の育成も妨げることになってしまうとも考えられます。そうやって「個」の育成を許容する環境が、いまの日本にあるだろうか、とも。