炎の一筆入魂BACK NUMBER
ドラ6の叩き上げ“新井さん”がついに新監督就任! 選手も待っていた切り札は、優しさと厳しさでカープ再建を目指す
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2022/10/12 11:04
19年の引退セレモニーでファンに応える“新井さん”。ファンにも選手にも愛された存在には重い使命が託される
広島伝統の猛練習で鍛え上げられ、4番となり、リーグを代表する打者となった。古巣に復帰して41歳でユニホームを脱ぐまで泥だらけになり、第一線で走り続けた。
ここ数年、広島の練習から緊張感が薄れていたように感じる。特に翌シーズンへ向けた第一歩となる秋季練習や秋季キャンプからは危機感はあまり感じられなかった。
数年前なら「秋はシーズン直前の春季キャンプと違って、ケガする直前まで追い込むことができる」と個々の鍛錬に充てていた。秋の取り組みがオフの充実度を左右していたように思う。25年ぶりに優勝した16年シーズン前年の秋季キャンプでは、野手がとことんバットを振り続けた。あの時間が3連覇を支えた強力打線の礎となったと言っても過言ではない。
時代は変わり、効率化も求められるようになった。シーズンが始まれば選手の調子や状態をマネジメントしていかなければいけない。ただ、秋季キャンプや春季キャンプ、重要な局面では一定の厳しさも必要だ。量だけでなく、質も。何より球団が求める若手育成に直結する問題にもつながる。
生え抜きでは得難い経験値
新井新監督が期待される理由には、阪神でプレーした経験も大きい。広島には他球団を知る指導者が少ない。地方に本拠地を置く影響もあるが、生え抜きコーチが長く指導する傾向にある。そういった特色が広島流、伝統野球を継承してきた背景もある。一方で、偏りが生じてきている現実も浮き彫りになりつつある。
さまざまな理論や打法が広まっている中でも、我流は認められにくい。当然、向き不向きもあるだろうが、オフに他球団の選手などから学び新たに取り入れた打法を矯正させられる選手もいた。
また、長く選手を見てきたという過信からか、選手の能力や可能性の限界をコーチが判断してしまっていると感じることもある。二軍首脳陣からの推薦があっても昇格を見送り、試合の中での作戦の幅も狭めていた。
指導者や裏方が寄り添い、それに応えるように努力したことで磨かれていった1人が、新井貴浩という原石だった。偏った指導では輝ける原石も、原石のままで終わってしまう。
指揮官としては未知数な部分もある。それでも何かが変わる期待感は、すでにある。「新井監督就任」の一報で選手たちの目の色が変わった。チームの変革を期待しているのは、球団幹部だけではない。
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