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「ラッキーマンですよ、僕は(笑)」37歳千葉和彦の“笑顔”がアルビレックス新潟に必要だった理由〈6年ぶりのJ1昇格〉
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/10/11 17:11
6年ぶりにJ1昇格を果たしたアルビレックス新潟。原動力の1つとなったのがサポーターとの一体感を生んだ千葉考案のパフォーマンスだった
新潟復帰1年目は名古屋時代に磨いたビルドアップ力が奏功し、攻撃サッカーを掲げたアルベルト監督に重宝された。ただ、プレー面で充実していく一方で、苦しい時もチームを支え続けてきた選手とサポーターへのリスペクトの念が彼を自制させていた。
「自分が帰ってくることができたのはゴメス(堀米悠斗)、(早川)史哉、ヨシ(高木)たちがずっとアルビレックスを守ってきてくれたからこそ。自分は彼らが積み重ねてきたものに乗っかっただけ。だからこそ、1年目や今季の始まりは出過ぎないようにしていました」
そんな思いが、劇的な形でホーム7連勝記録を樹立した東京ヴェルディ戦で爆発した。当時は「試合後の渋滞緩和を考えてやりました」とごまかしたが、それは常にチーム、サポーターのことを第一に考える千葉らしい振る舞いだった。
「もちろん、どの試合も全員がハッピーなわけじゃないと思うんですよ。だから、そこは選手それぞれの表情や態度を見ながらアプローチはしています。でも、今年はみんながんばったし、みんなが戦力で活躍した。出られない選手もいるし、実際に自分も出られない時もあった。でも、みんなでJ1昇格、J2優勝に向かってポジティブな雰囲気を崩さなかったことは大きかったですし、自分の言動をポジティブに捉えてくれる選手ばかりなのは本当に嬉しい。
若手の(秋山)裕紀や小見(洋太)も本当に成長した。よく考えると僕は本当に幸せ者ですね。広島からずっとこのマインドでやり続けてきたからこそ、こういう運命に巡り合わせてもらっているのかなと思います。ラッキーマンですよ、僕は(笑)」
「円陣の時に、ホームラン打つぞって(笑)」
本人は謙遜するが、その“ラッキー”を運んできたのは、紛れもなく千葉自身だと筆者は思う。J1昇格を決めた仙台戦でも、キックオフ前に大きな仕事をしていたことを後輩たちは見ている。
「今日も円陣の時にいきなり『みんなバッターボックスに立ったんだから、ホームラン打つぞ』って(野球漫画の)ROOKIESみたいなことを言うんです(笑)。ちょっと緊張していたみんながいい意味でほぐれました。みんな千葉さんの思いや人間性をわかっているからこそ、言葉が入ってくるんです」(MF高宇洋)
「千葉さんの雰囲気づくりは、僕のように試合経験の少ない若手は本当に助かっています。ピッチ内でもピッチ外でもみんなをよく見てくれていますし、千葉さんがいる安心感は本当に凄いです」(FW小見)
30代半ばに差し掛かったタイミングでプロ人生をスタートさせた古巣に戻ってきた。相当の覚悟があったはずだが、千葉はその類の言葉を一切発していない。
「よく『覚悟をもって戻ってきました』と言いますが、それは自分にとって似合わない言葉。どんな状況であろうと、どんな場所であろうと、常にサッカーを楽しみ、自分が楽しんでいる姿をお客さんに見てもらって、さらに楽しんでもらいたい。自分の行動でファンやサポーターの皆さんを楽しませたい。本当に笑顔にすることしか考えていないんです」
アルビレックス躍進に千葉和彦あり。新潟にかかわる全員がそう思っている。
ただ、稀代のエンターテイナーはどうやらまだ満足はしていないようだ。残り2試合、悲願のJ2優勝に向けて、引き続きピッチ内外のパフォーマンスに奮闘するはずである。
10月23日のホームでのJ2リーグ最終戦、どんなパフォーマンスが見られるか。また新潟のみんなを笑顔にする。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。