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「ラッキーマンですよ、僕は(笑)」37歳千葉和彦の“笑顔”がアルビレックス新潟に必要だった理由〈6年ぶりのJ1昇格〉
posted2022/10/11 17:11
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
J.LEAGUE
Jリーグ屈指の集客力を誇るアルビレックス新潟が、6年ぶりのJ1昇格を決めた。
10月8日のJ2第40節ベガルタ仙台戦。本拠地デンカビッグスワンスタジアムに詰めかけた3万2979人の声援を背に、選手たちは果敢な戦いを見せて3-0と仙台を完封。リーグ戦をまだ2試合残した状況での、圧巻の昇格劇だった。
試合後、ピッチでは“恒例行事”が行われた。
松橋力蔵監督がMF松田詠太郎をボウリングの球に見立ててセンターサークルに投げ込むと、前転を繰り返した松田はピンに見立てた選手たちのもとへ。次々と倒れていく中、最後は残った5人が白いTシャツの裏に仕込んだ『祝・J・1・昇・格』の文字を披露する。昇格を祝う特別バージョンにサポーターは大喜びだった。
今やすっかりお馴染みとなっている勝利後のパフォーマンスは、クラブとサポーターの絆を深める演出だ。これは37歳DF千葉和彦の発案、総指揮によるものである。
劇的な決勝弾に興奮、自らボウリングの球に
今シーズンの快進撃を象徴するパフォーマンスが生まれたのは、5月8日のJ2第15節・東京ヴェルディ戦。3-0のリードから同点に追いつかれるも、88分に途中投入されたFW矢村健が劇的な決勝弾を叩き込んで勝利を収めた試合だった。
ベンチに座ったまま試合を終えた千葉は、「展開が劇的すぎて興奮してそのまま勢いでやった」とその瞬間を振り返る。
メンバー全員をピッチに集めた千葉は、その場で急遽パフォーマンスの打ち合わせを敢行。そこで提案したのが、かつてサンフレッチェ広島時代に仲間と披露していたボウリングパフォーマンスだった。
同じくムードメーカー的存在のGK阿部航斗(25歳)が“ピン役”を買って出ると、殊勲者の矢村が“投球者”となり、自ら“ボウリングの球”に扮した千葉を投げた。選手たちの笑顔はやがてサポーターにも広がり、この日から勝利の後のお楽しみになった。
それ以降、千葉は“ボウリング”に留まらず、魚釣りや狩猟などサポーターを飽きさせないパフォーマンスを次々と考案していった。思い出深いのは高木善朗(29歳)が長期離脱となった次の試合で、ピッチの真ん中に全員で高木の背番号である「33」を作り出したこと。チームの大黒柱である高木の負傷で動揺するサポーターへのメッセージだったのだ。
そして、新潟にとって新たな歴史の1ページを紡いだ仙台戦が初心に返るボウリングパフォーマンスだったこともエンターテイナーらしい憎い演出だった。