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「マウンドで壊れてもいい」時代の流れに逆行する“投げたがり”投手、広島・九里亜蓮のタフネス伝説「3日で体は戻ります」 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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posted2022/08/28 06:01

「マウンドで壊れてもいい」時代の流れに逆行する“投げたがり”投手、広島・九里亜蓮のタフネス伝説「3日で体は戻ります」<Number Web> photograph by KYODO

昨シーズンは最多勝を獲得した九里。今季は8月25日時点で5勝8敗と黒星が先行しているが、駒不足の投手陣にあってその貢献度は大きい

 25年ぶりにリーグ優勝した16年は、先発と中継ぎでフル回転した。特にシーズン終盤は8月25日の巨人戦に先発して4回まで投げると、中2日で28日の中日戦に中継ぎ登板。さらに中3日で9月1日のDeNA戦に先発して5回途中まで投げた。

 17年も先発と中継ぎで前年を上回る登板数を残した。リリーバーとしては14試合で複数投球回をこなすなどして、タフネスぶりで「逆転の広島」を支えた。チームの中で地位を確立した21年は、春季キャンプ4日目にブルペンで347球の投げ込み。シーズン終盤には、7回途中まで137球を投じた試合から中4日で登板して13勝目をマーク。自身初タイトルとなる最多勝を獲得した。

 馬車馬のように投げ続けてきたかに映るプロ野球人生で、負傷離脱がないことは特筆に値する。九里はそんな生き方を自嘲したようにこう表現する。

「自分は技術やセンスがある投手ではない。投げて、投げて、これだけ投げてきたということを自信にしてきたタイプなんです」

 ポジションは与えられるのではなく、奪わなければいけなかった。求められることが喜びであり、そこで投げ、抑えることを次のマウンドへの糧としてきた。投げてきた過去があるからこそ、今がある。そう感じている。

CS進出のキーマンとして

 今季終盤を迎えた広島先発陣では大瀬良大地が二軍調整中で、前半戦8勝の床田寛樹が下半身のコンディション不良で離脱している。ドリュー・アンダーソンは三軍再調整中に新型コロナに感染。主力野手の相次ぐ新型コロナ陽性とともに、先発の離脱も大型連敗を招いた一因となった。

 クライマックスシリーズ(CS)進出争いで後退したとはいえ、CSはまだ射程圏にある。「無事之名馬」を地で行く右腕の存在が、キーマンに挙げられる。首脳陣は先発の駒不足を補う一手として、九里の登板間隔を詰めるローテーションを検討している。

「僕は3日あれば、体は戻ります。投げるのが好きなので。そう言える投手もなかなか少ないと思うので、もしそうなれば責任を持って投げないといけない」

 九里はどこか嬉しそうに胸を張る。

 近年は、先発投手の球数や登板間隔などの管理が徹底されている。今夏の甲子園大会決勝が完投なしのチーム同士による試合となったのも時代の流れだろう。

「そういう時代なので理解はできます。投げること、投げないこと双方に、メリットもあればデメリットもある。どちらにしても、自分がいかに信念を持ってできるか、だと思う」

 流れに逆らうような生き方をしてきた。投げて覚え、投げて強くなり、投げることで自己証明してきた。

「極端に言えば、マウンドで壊れてもいいと思っている」

 今年9月には31歳となる九里が、今後も同じスタイルで投げ抜ける保証はない。だからこそ、常に新しいトレーニング方法を探り、自分の体と向き合うことを忘れない。前時代的思考でもきっと、新時代を生き抜いていける。それがまた、新たな“タフネス伝説”となるのかもしれない。

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