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「マウンドで壊れてもいい」時代の流れに逆行する“投げたがり”投手、広島・九里亜蓮のタフネス伝説「3日で体は戻ります」

posted2022/08/28 06:01

 
「マウンドで壊れてもいい」時代の流れに逆行する“投げたがり”投手、広島・九里亜蓮のタフネス伝説「3日で体は戻ります」<Number Web> photograph by KYODO

昨シーズンは最多勝を獲得した九里。今季は8月25日時点で5勝8敗と黒星が先行しているが、駒不足の投手陣にあってその貢献度は大きい

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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 新たな“タフネス伝説”を予感させる登板だった。

 8月24日、神宮でのヤクルト戦。広島の先発・九里亜蓮は初回、1番・塩見泰隆の痛烈なライナーの打球を右手に受けた。マウンド前方に転がった白球を慌てて拾って一塁へ送るも、打球をモロに受けた中指、薬指は腫れていた。

 中継ぎの負担が増していた中で、まだプレーボールしたばかり。投手主将として自ら早々にマウンドを降りるわけにはいかなかった。一度ベンチに引き上げるも、歯を食いしばり4回まで93球を投げ抜いた。

 だが、何よりほしかったチームの勝利を手にすることができず、試合後は悔しさしかなかった。思うように制球できない中で3失点。試合後は指の腫れを隠すように、言い訳ひとつせずに敗戦の責任を背負った。

 ただ、痛みを我慢しながらの投球で新たな発見があった。

 2回2死一、二塁から長岡秀樹へ投じた2球目だ。外角に外れた真っすぐは148kmを計測した。この日、140km台前半ばかりだった中で、計測した1球に可能性を感じた。

「突発的にあれだけの球速が投げられたということは、常時投げられる可能性もあるんだと思う。あの感覚をつかめれば、もっと球速は上がると思っている」

 負傷しながら投げ続けた登板で新たな感覚を得る。九里が幼い頃から紡いできた“タフネス伝説”に、またひとつエピソードが追加された。

牛乳1日4リットル

 米国で過ごした幼少期は1日に牛乳4リットルを飲み、傷はつくっても骨折の経験は1度もない。中学時代に腰を痛めて整形外科に行ったときも、原因はトレーニングだった。医師から「腹筋のやり過ぎだよ。背中の筋肉をつけようか」と言われ、背筋を鍛えたことで腰痛が治ったという。

 中学、高校時代は「これはやってはいけないことだと思うんですけど、痛くても、やって治す。痛いところを痛くして強くする、と考えてやってきました」ときまりが悪そうに振り返る。

 亜細亜大学時代はキャンプ期間中、1週間で1000球以上投げ、1日400球超えの投げ込みを行ったこともあった。

 プロに入っても、投げて、投げて、投げてきた。

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