- #1
- #2
大学野球PRESSBACK NUMBER
「慶応は…本当に嫌いですね」東大野球部のスカウトが語る“スポーツ推薦も内部進学もない”東大の努力「夏休みは高校球児に勉強合宿で口説く」
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph bySankei Shimbun
posted2022/08/22 17:00
2017年、日本ハムからドラフト指名の挨拶後、安田講堂前で写真を撮る宮台康平投手。じつは東大野球部は高校1年当時から宮台に注目していた。そんな東大のスカウト活動とは?
「こちらから声をかけなくても、高校の先生から『勉強ができる野球部員がいますよ』『今度入ってきた1年生部員、なかなかいい子ですよ』といった連絡をもらえるようになりました。ただ正直言うと、実際に見てみて、その子が野球が上手いかどうかは私には関係ない。それよりも、本気で甲子園を目指している高校からの、最初の東大野球部員を作ることが重要なんです。多くの高校生は先輩の進路を参考にしますから、東大野球部というルートを一度作ると、後輩も東大を目指すようになるのです」
浜田によれば、高校球児は大きく分けると、プロ野球のドラ1候補、U-18代表、甲子園経験者、甲子園まであと一歩組、1回戦ボーイ(1回戦負け)というピラミッド型になっている。東大野球部のメンバーは1回戦ボーイが中心であるため、浜田はここに強豪チームの血を安定的に入れる仕組み作りにこだわったのだ。
監督としての浜田のスカウト活動はさらに熱を帯びた。とっておきの小道具としては、スクールカラーである淡青色に「東大」と白く染め抜いたハチマキ。「これで偏差値が5上がるよ」と渡せば、東大受験のモチベーションがグッと上がるという。
また、夏休みには高校球児を集め、東大野球部のグラウンド近くで2週間の合宿勉強会も実施。昼は予備校で学習、夜は現役の東大野球部員が家庭教師のように密着するという強力なバックアップ体制だ。勉強会とは別に、高校1~3年生を対象とした練習体験会も開催しており、これも優秀な球児たちのやる気に火をつけるのだという。
「そのような活動を行なっていくと、毎年8月には東大受験予定者リストができあがります。各高校から情報を寄せられた有望選手や、勉強会と練習会の参加者をまとめるとおよそ200人ほど。そこから20人前後が東大受験に至り、そのうち合格するのが3、4人ですね」
「慶應は、この点では本当に嫌いですね」
目をつけた200人中、20人しか東大を受験しない歩留まりの悪さは、他大学との競合によるもの。
「私が高校生と直接メールのやりとりをしたり、間接的に高校の監督さんを通じてメッセージを伝えてもらったりして、東大受験のモチベーションを上げていくわけですが、途中で横取りされるんですよ。特に慶應はもう、この点においては本当に嫌いですね。文武両道の公立進学校には慶應の指定校推薦枠があって、そちらに流れるケースは多い。受験で合格するかどうかわからない東大よりも、指定校推薦で100%入れる慶應を選んでしまうわけです。また、東大を目指して勉強をしてはいても、最終的には確実に合格できそうなランクの大学を受験する子もいます」
そうやって他の5大学にも有望選手を送り込んでいる点で、浜田のスカウト活動は両刃の剣とも言えそうだが、本人は意に介さない。神宮球場で対戦した際、「高校時代はお世話になりました」と他校の選手が挨拶しに来るたび、自分のスカウト活動は、東大だけでなく、東京六大学リーグ全体に貢献しているとの思いを強くしていたという。
東大合格への戦略「7000時間勉強すればいいんですよ」
だが、浜田の持論としては、戦略さえ知っておけば、東大受験と野球という文武両道を達成するのはそこまで困難ではない。