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春夏連覇はなぜ難しいのか? 「要因のひとつは油断と慢心をなくせないこと」帝京前監督・前田三夫が明かす30年前の“まさかの敗戦”から学んだ教訓 

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前田三夫

前田三夫Mitsuo Maeda

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photograph byYuji Ueno

posted2022/08/20 17:00

春夏連覇はなぜ難しいのか? 「要因のひとつは油断と慢心をなくせないこと」帝京前監督・前田三夫が明かす30年前の“まさかの敗戦”から学んだ教訓<Number Web> photograph by Yuji Ueno

昨年8月に監督を退任した前田三夫氏。今から30年前、春夏連覇を狙った帝京で起きていたこととは……?

いざ大会に入ると、選手たちに「油断」が生まれました

 その三澤を中心にチームはまとまっていて、夏の東東京予選は準々決勝の城西戦が10対0、準決勝の安田学園戦が11対5、決勝の二松学舎大附属戦が10対2。全6試合で2ケタ得点を挙げたうえに無失策と、ほかの高校を寄せつけないほど圧倒していたのです。当然、夏の甲子園でも帝京は優勝候補の筆頭に挙げられていました。

 ところが、いざ大会に入ると、選手たちに「油断」が生まれました。1回戦の対戦相手である香川の尽誠学園のビデオを一切見ようとしないのです。私はそれまでも対戦相手のビデオをキャプテンにわたして、選手全員でチェックしてマークすべき選手のことや、攻撃面ではどんな作戦を用いてくることが多いのかなどについて、つぶさに分析していました。

 しかし、このときは選手全員でミーティングを行なって対戦相手を分析していた形跡が見当たらないのです。私はキャプテンに「おい、対戦相手のビデオは見たのか?」と念のため聞いてみたのですが、当の本人は「はい、見ました」の一点張り。私はそれ以上問い詰めることはしなかったのですが、ビデオでチェックしていないことが明白でした。それだけに私は「明日は大丈夫だろうか......」と、嫌な予感が脳裏をよぎりました。 

高校生に油断が生まれる瞬間

 そうして迎えた大会3日目の第3試合、帝京は尽誠学園と対戦しました。2回に相手投手の渡辺隆文選手にセンター前にタイムリーヒットを打たれて先制点を奪われると、この1点が重くのしかかりました。帝京は初回、3回、5回、6回といずれもスコアリング・ポジションに走者を置いたのですが、ホームに迎え入れることができませんでした。8回には先頭打者の三澤がセンターへ深々と大飛球を放ったものの、センターに余裕を持ってキャッチされ、その後も抑えられてしまい、結局は0対1で負けてしまったのです。

 私は相手の強さよりも、自分のチームのふがいなさを痛感しました。三澤が奪われた1点は仕方ありません。試合序盤のまだ本調子でないときに、得点を奪われるということは往々にしてあることです。その後、彼は相手打線を0点に抑えてくれた。本人は「あの1点さえなければ......」と反省しているかもしれませんが、私は特段気にするべきことではないと思っていました。

【次ページ】 油断と慢心は、監督である私自身にもあった

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