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ソフトバンク今宮健太の高校時代…“練習嫌い”だった九州の怪童が菊池雄星を知った日「バケモノでした」「雄星に負けて僕は変わった」 

text by

田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/08/12 06:01

ソフトバンク今宮健太の高校時代…“練習嫌い”だった九州の怪童が菊池雄星を知った日「バケモノでした」「雄星に負けて僕は変わった」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

花巻東に完敗し、花巻東に勝つことを目指した明豊の主砲、今宮健太。やり切った末の敗戦には笑顔を見せた。

「とにかく菊池雄星を追い続けた」

 さらに今宮は内角球を克服するための特訓を積んだ。左腕に打撃投手を頼み、マウンドのずっと前から投げてもらった。また、内角攻めにやられた姿が全国中継されたことで、練習試合でも胸元を突かれることが格段に増えたが、今宮には逆にそれがよかった。「実戦が最高の練習になりました」。最短距離でバットを出すコツをつかみ、その後の4カ月間で32本塁打を量産した。

「とにかく菊池雄星を追い続けた。それしか頭になかった」

 夏の県大会を勝ち抜き、甲子園でも駒を進めて準々決勝、運命の糸に引き寄せられるように両校は再び激突することになった。

 今宮の胸中は説明するまでもない。しかし、意外過ぎる結末が待っていた。

 菊池が打席の今宮に投げてくるのは外角への変化球ばかり。攻略のために汗水垂らしてきた内角直球が全く来ない。菊池は大会中に背中を痛めており、この試合も5回途中で緊急降板した。両者の対決はセンターフライとキャッチャーゴロの2打席のみで終わってしまったのだった。

「投げている姿を見ておかしいなと気づいていました。内角の直球を待っていたし、微妙な気持ちになったのは確かです。でも、雄星を打つためだけに努力したのではない。みんなで花巻東に勝つことが目標だった。だから切り替えるわけでもなく、モヤモヤした気持ちはありませんでした」

語り継がれる“ピッチャー今宮の衝撃”

 プレーボール前、最大の焦点は2人の対決だった。しかし、この試合を振り返って今も語り継がれるのは、9回にリリーフ登板した今宮の剛速球だ。同点に追いつかれた直後の1死三塁でマウンドに上がると、自己最速の154kmを投げ込んだ。高校球児の中でも小柄な今宮のどこからそんな力が生まれるのか。日本列島の野球ファンが驚いた。2者連続三振を奪いピンチを脱したのだ。

「ただ全力で腕を振っただけ。投げ方はめちゃくちゃのはずです。なのに、捕手の構えたところに全部ボールが行ってくれた。スライダーの曲がりも異常だったし。自分の中で何かが弾けた。ゾーンに入っていました。あんな出来事は野球人生でもあの試合の9回のマウンドだけ。プロに入ってからもガッと集中して、またあんな自分が来ないかなと求めたりしますけど全然ダメですね。これから先もないかなと思います」

【次ページ】 「負ける悔しさを知っているから…」

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