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“駒大苫小牧の怪物”田中将大を倒す…16年前、名将・高嶋仁の鬼指導に智辯和歌山キャプテンは…「グラウンドは生きるか死ぬかでした」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/17 17:01
2006年夏、怪物・田中将大のベストピッチを引き出した智辯和歌山の執念に迫る
高嶋監督の徹底した田中対策
その年の秋、智辯和歌山は近畿大会の決勝で、履正社に敗れた。一方、駒大苫小牧は北海道大会を制し、明治神宮野球大会に駒を進めた。
高嶋は毎年、その年の全国のレベルをはかるために、神宮大会を観戦する。そこで優勝した駒大苫小牧の田中の、とんでもない快投を目にする。
田中は4試合に登板し、計28回と3分の2で、47個もの三振を奪った。驚異の奪三振率である。150km近い直球と、140km近いスライダーのコンビネーションは、高校レベルをはるかに超えていた。
高嶋は和歌山に戻るなり、マシンで打撃練習する際は、ストレートは160kmに、スライダーは140kmに設定するように指示する。主将で、現在、部長を務める古宮克人はそのときのことをこう回想する。
「スッと入ってきましたね。わかりましたと。それぐらいしないと田中は打てないだろうと思っていたので」
160kmのストレートはこれまでも練習したことはあったが、さすがに140kmのスライダーは未体験だった。橋本は呆れ気味に言う。
「バカみたいなボールでしたよ。こんなボール、ないやろと」
それでも1週間もかからないうちに、軌道に慣れ、打てるようになった。しかし、廣井は、人が投げるボールはそんなに簡単なものではないと予期してもいた。
「正直、こんなスライダーを放るなら、無理だなと思いましたよ。だって、それ以外に真っすぐもあるわけですから。しかも、マシンの150kmと人の150kmは違う。でも高嶋先生の発想は、160kmのボールが打てれば、それより遅いボールは打てるという発想なので。試合になると、必ず『速いか?』って聞かれる。実際、速く感じても『そうでもないです』と言うしかない。そうすると『じゃあ、打てるわ』と。でも、とりあえず、先生に言われた練習をやるしかないですからね」