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逆ヘッドタックルで倒れる学生も…名門・早稲田大学ラグビー蹴球部ドクターの1日に密着「コンタクトスポーツには不可欠」
posted2022/07/10 17:00
text by
長田昭二Shoji Osada
photograph by
Yuki Sunenaga
スポーツにケガは付き物。日頃からケガの予防に取り組み、それでもケガしてしまったときには、ダメージを最小限に留めることもアスリートの力量とされる。
そんな時に力強い存在感を示すのがスポーツドクターという存在。チーム競技なら「チームドクター」という医療者が、現場に同行していることが多い。
そこで今回、コンタクトスポーツの中でもとりわけケガをしやすいラグビーのチームドクターに密着取材した。
実はチームドクターに「特別な資格」はいらない
6月12日の日曜日。東京・稲城市にある「日本大学アスレティックパーク稲城」を訪ねた。この日同施設内のラグビー場で、関東大学ラグビー「日本大学」対「早稲田大学」の公式戦が行われているのだ。
今回取材を受けてくれたのは、早大ラグビー部のチームドクター、鈴木一秀医師。早大ラグビー部には現在4名のチームドクターがいるが、そのヘッドドクターとして、主としてAチーム(トップチーム)の試合に同行している。
川崎市内にある麻生総合病院副院長兼スポーツ整形外科部長を務める鈴木医師は、自身も大学までサッカー部に所属したスポーツマン。「アスリートのサポートをしたい」との思いから整形外科を専攻し、これまで多くの競技選手の診療に当たってきた。
そんな鈴木医師に、早大ラグビー部のチームドクターになった経緯を訊ねた。
「以前大学附属のリハビリ病院で診ていた患者の中に早大ラグビー部の選手がいて、トレーナーとも知り合いになったんです。前任のチームドクターが開業して退任することになり、後任として誘われたのがきっかけです。ただ、私一人では120人もの選手たちを見るのはとても不可能なので、後輩のスポーツ医を誘ってお引き受けすることになった。いまから15年ほど前のことです」
そもそもチームドクターになるには、何か資格は必要なのだろうか。鈴木医師は笑って即答した。
「それが“医師”の免許を持っていれば誰でもなれるんです。診療科の制約もないので整形外科以外の医師でもなれるし、事実、内科医のチームドクターもいます。とはいえ、実際には競技のルールや特性、特に、どんな状況でどんなケガが起きやすいのかを熟知している必要があるので、その意味では誰でもOKという訳にもいかない。でも、何よりも重要なことは、“その競技が好き”ということですね」
試合直前「試合には出られるが痛みはある」
この日は午前11時からCチーム、午後3時からBチーム同士の練習試合があり、その間の午後1時から、Aチームによる関東大学春季大会公式戦が組まれるというトリプルヘッダー。そのため早大チームは、医師も鈴木医師ともう1人、普段はBチームを担当する山口重貴医師の2人体制で臨んでいた。
我々が到着した時はCチームの試合の後半で、Aチームは試合前の準備中。見ると1人の選手を伴って鈴木医師が控室に向かうのであとを追った。この選手は4週間前の試合で肩鎖関節(鎖骨と肩甲骨の関節)の亜脱臼を起こし、ケガそのものはほぼ治っているが痛みが残っている。つまり「試合には出られるが痛みはある」という状態だ。