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逆ヘッドタックルで倒れる学生も…名門・早稲田大学ラグビー蹴球部ドクターの1日に密着「コンタクトスポーツには不可欠」
text by
長田昭二Shoji Osada
photograph byYuki Sunenaga
posted2022/07/10 17:00
コンタクトスポーツの中でもとりわけ怪我が多いラグビー。チームドクターの存在は不可欠だ
「医療報酬なし」でも、責任は発生する
まず、大学のラグビー部にチームドクターが所属しなければならないのかというと、その決まりはないということに驚いた。
「秋の公式戦には連盟から派遣されるマッチドクターがいますが、それ以外のゲームはあくまで各チームの判断です。早稲田の場合は試合には必ず1人の医師が同行しますが、相手チームに医師がいないことはある。そんな時は両方のチームのケガ人を1人で診ることになります」
対戦相手とは言え、目の前でケガをした選手がいるのに見過ごすことはできないし、そんなことをしたら「医師法」に違反する。しかし、「医療法」の視点で見ると、グレーゾーンはある。
「持参した薬品や器具を使ってケガをした選手に処置をすることはれっきとした医療行為であり、言ってみれば“往診”と同じことをしているわけです。しかし、そこに診療報酬は発生しません。使った薬や衛生材料などの実費はチームから支払われるが、それは医療行為に対する報酬ではない。そもそもカルテの作成もしないので、医師としての責任が曖昧なところがあるのです」
現場で診て「問題なし」と判断した選手に、あとで深刻な後遺症などが出た場合、チームドクターに責任が問われる危険性はある。ボランティアとはいえ、医師にとってはつねに緊張感を強いられる仕事なのだ。
「安全性を考えれば監督に選手交代を進言できますが、医師もチームの一員である以上、交代させることでチームの戦力に変化が生じることも頭をよぎります。リーグワンには脳震盪を起こした可能性のある選手のゲーム復帰の可否を判断するための時間『HIA(ヘッドインジャリー・アセスメント)』が10分間認められていますが、大学ラグビーにはそれがない。様子を見ていい打撲なのか、重篤な脳震盪や脳挫傷なのかの判断を、現場で短時間に下すのが難しいこともなくはない」
早大監督が実感する「チームドクターは不可欠」
“魔法のやかん”で育った根性論優先の指導者やスタッフだと医師の判断と意見が衝突することもあるようだが、早大ラグビー部では「医師の判断を優先する」という話し合いができているので、「そこは本当にありがたい」と鈴木医師は言う。
チームとチームドクターの強い信頼があってはじめて成り立つこの関係について、大田尾竜彦監督に聞いた。