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「ええ~っ」「大山はドラ2で獲れたのでは…?」ドラフト会場では悲鳴も…6年前、阪神はなぜ大山悠輔を1位で指名したのか?
posted2022/06/23 17:01
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Sankei Shimbun
いい顔になってきたなぁ……と思いながら、画面を見ていた。
マウンド上には、10日前にノーヒットノーランを達成したばかりのDeNAの左腕・今永昇太。その低めの速球……145キロ出ていても、本人にはおいしいボールだったはずだ。
日本人ばなれした雄大な放物線。この長距離砲にとって、最も快適に振り抜けるスイング軌道に、ピタリとはまるボールだった。
阪神・大山悠輔が放った打球は、甲子園球場のレフトスタンド上段にまで達していた。ちょっと横目気味に見上げる表情に、不敵なほほえみさえ浮かんでいるようにも思えて、すっかり「闘う男の顔」になった大山が頼もしく見えた。
ドラフト1位で阪神に進んで6年目。早くから打線の軸として期待が大きかった分、さんざん叩かれながら、ググッと頭をもたげてきた男の「意地」もはっきりと伝わってきた。
ペナントレースのスタートで最下位に沈み、どうなることかと憂慮された阪神。それが、ここに来て4位(以下、6月22日現在)にまで浮上。勝率5割のラインも見えてきた原動力の一翼を担ってきたのが、交流戦で7弾、ここまでチーム最多18本塁打を放つ大山悠輔だ。
「乗せたなぁ」白鴎大の大山悠輔が語っていたこと
高々とボールを持ち上げて、見えなくなるほど遠くまで運び去っていく……このバッティングスタイルを、白鴎大当時から、ずっと見てきている。
ホームランを打てる打者は少なからずいるが、打球にこれだけの角度と高さを与えられるバッターはなかなかいない。
タイガースの大先輩・田淵幸一捕手のスイングスタイルが例としてよく挙げられるが、すでにかなり以前のことで、その「実際」を目撃しているファンも少なくなっている。
最近の選手で本格的な「放物線」でアーチをかけられる和製大砲といえば……鈴木誠也がメジャーリーガーになってしまってからは、西武・山川穂高、ソフトバンク・柳田悠岐を挙げるほどだろうか。
打球を見ればバッターがわかる……そんな表現があてはまる数少ない長距離砲であることは間違いない。
「放物線の大山悠輔」に最初に驚いたのが、つくば秀英高から白鴎大に入学してしばらく経った頃。すでに1年生で三塁手としての定位置をがっちり手中にしていた。